秋元通信

「茹でガエル理論」とは。「物流の2024年問題」を例に考える

  • 2023.11.21

「『カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう…』
 
ゆでガエル理論とはこのように、ゆっくりと進む環境変化や危機に対応する難しさや大切さを説く言葉として使用され、時には『ゆでガエルの法則』『ゆでガエル現象』という表現もされます」
※出典 「HRpro 用語集

 
 
一応申し上げておくと、冒頭に挙げたカエルの習性は間違いだそうで、以下が正しいそうです。
 

  • 熱湯に放り込むと、カエルは即死する。
  • 徐々に加熱すると、途中でカエルは逃げ出す。

 
事実はともかく、自らが置かれた危機的な状況に対応行動を取らずに、そのまま何もせずにいることで、やがてのっぴきならない危機的な状況に陥ってしまうということを、茹でガエル理論と呼びます。
 
こういう状況って、皆さまも身に覚えがありませんか?
現在、私ども物理業界が直面している「物流の2024年問題」は、好例でしょう。
 
 
 

トラックGメンが嘆く、「申告は1割弱」の現実

 
先日、トラックGメンを取材しました。
トラックGメンとは、「物流の2024年問題」対策のひとつとして国土交通省の陸運局内に新設された組織です。
 
全国の運送会社からヒアリングを行い、対価を伴わない付帯作業の強制、下請法に違反するような優越的な地位の濫用(※取引停止をちらつかせて、荷主からの要求に従わせるなど)、あるいは運賃交渉に応じないと言った荷主や大手物流事業者などを摘発することを目的とした組織なのですが。
 
「ヒアリングを行っても、正直に胸の内を明かしてくれる運送会社は1割弱しかいません」と、筆者が取材したトラックGメンの方は嘆いていました。
 
世の中、そんなにクリーンな取り引きを行っている運送会社ばかりなのでしょうか?
いやいや、そんなことは絶対にないでしょう。
 
荷主の不正行為(とあえて申し上げます)を申告しない理由は、いくつか考えられます。
 

  1. 申告に値するような不正行為が本当に存在しない。
  2. 不正行為はあるけど、申告すると、結果的に荷主に知られ、取り引きを切られるのが怖い。
  3. 「トラックGメンに申告したところで、何も変わらない」と考えている。
  4. 不正行為はあるが、それを申告する意味を見いだせない。
  5. 荷主の不正行為を申告すると、自社の不正行為もつまびらかにしてしまう。

 
1.はともかく、2以降は、どれも「物流の2024年問題」に起因する政府の本気度や、運送ビジネスの環境変化を軽視(控えめに言っても、「見誤っている」)います。
 
荷主の不正行為によって、コンプライアンス違反を行っているうちは、運送会社は被害者です。
しかし、それを改善する機会(今ですね)を逃し、コンプライアンス違反を続けていたら、今度は違反の当事者となり、摘発される対象となってしまいます。
 
「そうは言っても、これまで摘発されず、指導も行政処分も受けてこなかったんだから…」
 
ごもっともです。
でも、それが今後も続くとは限りませんよ。
 
こういった運送会社は、周りの水温が徐々に上がっていることに気がついていません。言ってみれば、「茹でガエル」予備軍なのです。
 
 
 

茹でガエルになる人と、ならない人の違い

 

「見ているのと発見は違う」

 
炭素原子が細く筒状につながった分子「カーボンナノチューブ」を発見した名城大学の飯島澄男終身教授はこのように発言したそうです。
 
出典:
<サイエンスNextViews>偶然の発見には理由がある 必然へ、視点と技能育め(日経新聞)
 

「飯島氏は過去の取材で『自分より前にナノチューブを見ていた人はたくさんいただろう』と話していた。実際、先に発見していたと主張する研究者はいた。しかし、分子構造を特定して科学的に新規の分子だと明らかにしたのは飯島氏だ。何がこの差を生んだのか。『発見の準備をしていたからだ』と分析する」

 
記事内ではこのように説明されています。
これ、実に興味深いと思いませんか?
 
同じ職場で働き、同じような経験をしていても、成長する人と成長しない人がいます。
言ってみれば、成長しない人は「ただ見ているだけ」であって、自らの成長の糧となるような知見を発見しようという意識が足りないのでしょう。
 
飯島教授の「発見の準備をしていたからだ」という言葉を借りれば、発見の準備をしていない人は、診るべきものを見ても、それと判断、あるいは検知できないことになります。
 
茹でガエルになってしまう人と、茹でガエルにならない人の違いも、このあたりにありそうです。
 
 
 

「VUCAの時代」と言われる今だからこそ

 

「VUCA(ブーカと読みます)という言葉をご存知でしょうか。
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったビジネス用語です。
VUCAとは、経済や政治など、ありとあらゆるものが刻一刻と変化し(Volatility)、複雑なカオスと化している(Complexity)今の時代において、これまでの事例や知見が参考にならないような想定外の事象(Uncertainty)が次々と発生していることから、将来が予測困難な状態(Ambiguity)にあることを意味する言葉です」
出典
予測不可能な現代を表すキーワード「VUCA」とは

 
現代は、「VUCAの時代」と呼ばれます。
VUCAについて、秋元通信では何度も取り上げてきました。
 
「変わらない」ということは退化と同じです。
なぜならば、周囲が進んでいけば、結果として取り残されることになるからです。
 
現代において、社会環境、ビジネス環境、マーケットが変わるスピードが上がっているのは間違いがないでしょう。したがって、自らが茹でガエルになっていないかどうかは、より注意深く自己発見に務める必要があります。
 
茹でガエル理論の怖いところは、気がついたときにはのっぴきならない状態に追い詰められていることです。
 
皆さまは、知らず知らずのうちに、茹でガエルになっていませんか?


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