先日行われた、ル・マン24時間耐久レースにおいて、ついにトヨタが悲願の初優勝を成し遂げました。歴史的な快挙です。
日本車がル・マンで優勝したのは、1991年のマツダ以来となります。
また、日本車&日本のチームがル・マンを制したのは、1923年から始まるル・マン24時間耐久レースの歴史において初となります。
一昨年、優勝を目前にTOPを走っていたトヨタは、ゴール3分前にトラブルを起こし優勝を逃しました。
トヨタのWebサイトに、豊田章男社長のコメントが掲載されています。抜粋してご紹介します。
https://toyotagazooracing.com/jp/wec/release/2018/rd02-race7.html?padid=tjptop_info_topics_contents
<豊田章男社長 コメント(抜粋)>
(省略)
「クルマを速くするだけではル・マンには勝てないんだ!我々には”強さ”がない!強いチームにはなれていない!」
昨年のレースの後、私は思わずチームに声を荒げました。チームはゼロからのやり直しとなり”なぜ強さがなかったのか?”それを考えるところからの再出発となりました。
そして、チームが、考え、辿り着いたのがトヨタが大切にし続けている「改善」という考え方です。
クルマをつくるひとつひとつの作業…走らせる為のひとつひとつのオペレーション…それに向かう一人一人がどうしたらミスが起きないかを考え、それを徹底する。そうするとまた次にやるべきことが見つかっていく。
欠けていた「強さ」を身につけようと1年間ひたすらに改善を繰り返し、積み重ねてきました。
(以下、省略)
ゴールまで残り20分ほどでしょうか、解説の脇阪寿一さん(元プロドライバー。現在はチーム監督等で活躍)は、悲劇的な敗北からル・マン優勝に向けて、スタッフたちが切磋琢磨してきた様子を語りました。
鍵となったのは、先の豊田章男社長の言葉通り、トヨタ生産方式だったそうです。レースの現場、つまりレースカー作りはもちろん、レース中のオペレーションからチーム運営にまで、トヨタ生産方式を適用し、徹底的にクオリティ・コントロールにこだわったそうです。
今回のトヨタの試みは、「チーム運営の今後を変えるかもしれない」(脇阪寿一さん)ほど、前例のないものだったようです。
筆者は以前、仕事としてモータースポーツに関わっていたことがあります。
初めてレースの現場に足を運んだ時、レースカーの修理にガムテープを用いていたことに驚きました。もちろん、すべてではないですけどね。ただ、こういう泥臭さがレースの現場の本質なんだと感じた瞬間でした。
モータースポーツの世界は、基本的に職人の世界です。
これは自動車メーカーのワークスチームであろうと、基本的には同じです。
よく、トヨタ生産方式を職人肌のチームスタッフ、エンジニア等、モータースポーツの現場が受けいれたな…
私が感じたことです。
職人気質が支配し、勘と経験が尊重されるレースの現場は、ある意味、理路整然としたトヨタ生産方式とは、対極にあります。
皆さまも、現場に改善、改革を行おうとする際に、現場スタッフの反発にあった経験があるのではないでしょうか。
変化を求めようとする際に、もっとも大きな障害となるのはひとの心です。
そして、誤解を恐れずに言えば、いわゆる職人肌の方々ほど保守的で、また新しい考え方を受け入れることを拒否します。
なぜ、今回のル・マン優勝チーム(TOYOTA GAZOO Racing)が、改善を受け入れることができたのでしょうか?
なぜ、今まで積み上げた自身の経験、その蓄積を見直すことができたのでしょうか?
私は、「ル・マン24時間耐久レースで勝ちたい!!」という強いモチベーションであったと考えます。
このことは、私どもが改善を目指す道程で、現場の反発などに遭遇した時に、ヒントとなるのではないでしょうか?
改善の目的であり理念を、きちんと現場に伝えられているか?
「今よりももっと良くなりたい(良くしたい)」というモチベーションを共有できているかどうか?
脇阪寿一さんが感極まりながらレース解説中に発した言葉、そしてモリゾウさん(豊田章男社長)のコメントを読みながら、深く考えさせられました。
トヨタのル・マン24時間耐久レース優勝、とても嬉しかったです。
おめでとうございました。