秋元通信

ドライバーへの忖度が、配車効率化を阻む

  • 2019.8.30

筆者は当社に来る前、配車システムの営業でありコンサルティングをしていました。これは、その時のエピソードです。
 
ある有名ファストフードチェーンからご相談を頂戴したことがあります。同社では毎月、配送コースを変更していました。ところが、その配送コースを考えること、つまり配車作業に、1週間以上かかっているとの話。配車担当者が抱える一ヶ月の仕事の四分の一が、配車業務に費やされていることになります。
私が扱っていた配車システムは、動態管理機能を備えています。トラックにはタブレットを設置し、配送先を回る順番はもちろん、カーナビ機能によってルートを最適化します。
 
 
システムの効果は抜群でした。
シミュレーションの結果、各配送車両の走行距離および配送時間は、今までよりも平均20~25%減少すると試算されたのです。さらにシステムの効果が発揮されたのは配車作業です。それまで1週間以上を費やしてきた配車作業が、数時間で終了したのです。
 
当然、私はシステムを採用してもらえるものの考えました。まあ、当然ですね。
ところが、1週間経過し、2週間が経過し、一ヶ月が過ぎても採用の返事が来ません。それどころか、私が連絡すると配車担当者は逃げ回り、居留守を使っている気配すらあります。二ヶ月を過ぎた頃、業を煮やした私は、配車担当者に少々キツめのメールを送りました。
すると、向こうから恐る恐る電話がかかってきたのですが。
システム不採用の理由を聞いて、私は怒りを通り越し、呆れ果てました。
 

「私は、導入を主張したんですが、上司に言われたんですよ。『じゃあ、お前は月の四分の一をどうやって過ごすんだ? お前、空いた時間分は自分で仕事探せよ!』って…」

 
いや、当然ですよね!?、サラリーマンなんだから??、と心の中でつぶやいた私に対し、彼は更に続けます。
 

「『ドライバーの不満解消はどうやって解消するんだ?』とも言われました。今まで、『あいつのほうが楽だ!』とか、『俺のほうがきついコースばかり回されている』などの不満を、毎月配車コースを見直すとこでなだめてきた側面があるのは確かなんですよ。
『システムが組んだコースだから我慢してください』なんてドライバーに言ったら、『あいつら不満を爆発させて手に負えなくなるぞ!』って上司に言われまして」

 
 
最初に、配送コースを組むのに1週間以上かかる、と聞いた時に、私も「なんでそんなに時間がかかるんだろう?」とは思いました。こういうことだったんですね。
でも、彼からは、「ドライバーの不公平感を解消するためにもシステムを導入したい」とも聞いていました。そのことを指摘すると、彼はこのように答えました。
 

「『お前が配車に苦労している姿を見せておけば良いんだよ! そうすることで、ドライバーたちの不満も多少和らぐから』って言われるとね…」

 
 
『8:2の法則』というのをご存知でしょうか。これは、『働きアリの法則』とか『パレートの法則』とも呼ばれます(※厳密には異なるのですが、ここでは同じものとして話します)。
 
働きアリを観察すると、よく働く2割のアリが8割の餌を集め、8割のアリはサボっているそうです。だとすれば、2割の勤勉アリだけをピックアップすれば、より効率の良いアリ集団が形成可能だと思いませんか? しかし実際は、2割の勤勉アリだけを抽出すると、その中で2割の勤勉アリと8割の怠け者アリに分かれると言います。
これは、人間の世界、会社でも同じだと言われています。組織というものは、2割の勤勉な人たちが8割の売上を上げていると考え方です。さらに言えば、商品販売においても同じで、商品ラインナップ全体を考えた時、売れ筋と言われる商品2割で、8割の売上を上げているとする考え方もあります。
余談ですが、これとまったく相反する事象がネット通販では確認されることがあります。それが10年ほど前に話題となったWeb2.0でありロングテール現象なのですが、これは機会があればお話ししましょう。
 
 
私が配車システムの営業でありコンサルティングをしている時、気がついたことがあります。
多くの配車マンは、配車業務の8割くらいまでは、わりと簡単に終わらせる能力を皆さんお持ちです。「簡単」という表現が不適切であれば、「苦労せずに」、「神経を使わずに」と言い換えても良いです。
しかし、残りの2割に対し、8割の神経と労力を費やしている配車マンのなんと多いことか。しかもその2割の内容は、誤解を恐れずに言えば、ほぼドライバーへの忖度なんですね。
 
こっちの配送先は、○○さんは嫌がっていたし。
あっちの待たされる配送先は、□□さんに3回続けて行ってもらったし。
そっちの集荷先のフォークマンは、△△さんが嫌いだって言ってたしなぁ…
 
その結果、ドライバーへの忖度のため、配車マンは多くの時間と神経をすり減らしています。
 
確かに、ドライバーの心情を慮る配車は必要です。しかし、行き過ぎは良くないです。
例えば、あなたの会社の営業マンが、「○○商事の仕事をするの、もう嫌です。担当変えてください」と言ってきたらどうしますか?
例えば、「□□工業って会社から遠いんですよね。行きたくないです」って営業マンが言ってきたらどうしますか?
 
「分かったよ、じゃあ担当を変えよう!」って即断しますか? しませんよね。
多くの会社では、事情を聞いて、のっぴらきない理由がない限り、本人に担当を続けさせるはずです。
何故ならば、仕事ってそういうものですから…
 
 
では、何故ドライバーの愚痴に対しては、配車マンは弱気なのでしょうか。
もっと言えば、何故そこまでドライバーに対して忖度するのでしょうか?
 
理由はいくつかあるでしょうけれども、私が思うに、コミュニケーションが足りていないからではないでしょうか。
実際、ドライバーとマメなコミュニケーションが取れている運送会社では、これまで書いたような、極端な忖度は発生していないように思います。
 
 
配車に限らず、業務の効率化を妨げ、生産性向上を阻むのは、多くの場合、「ヒト」の問題です。
 
あなたの会社は、大丈夫でしょうか…?


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