今年2月19日、政府は「物流危機を救う切り札」とする自動物流道路に関する検討会を立ち上げました。
聞き慣れない自動物流道路について、解説しましょう。
2023年6月2日に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」では、以下のように記されています。
- 「高速道路上の車道以外の用地や地下を活用した物流専用の自動輸送についても、調査を行う」
また検討会では、「道路空間を活用した人手によらない新たな物流システムとして、自動物流道路(Autoflow Road、オートフロー・ロード)の実現を目指します」としています。
検討会で他国の事例として取り上げられているのは以下です。
- CST(スイス)
- 主要都市間を結ぶ総延長50kmの自動輸送カートによる地下物流システム。
- 2031年までに最初の区間(チューリッヒ~ヘルキンゲン間:約70km) 完成・運用予定、2045年までに全線開通予定。 (総工費約5.7兆円)
- 貨物専用トンネルは直径6m。地下20~100mに設置。
- 自動輸送カートによりトンネル内の3線のレーンを時速30kmで24時間体制で走行。
- 地下トンネルへはハブ(物流ターミナル)を介して垂直輸送され、ハブにおいて他の交通モードと接続。
- トンネルの3レーンのうち2レーンはカートの走行レーン、真ん中の1レーンはメンテナンスや荷物の仕分け等のための空間として活用。
- 自動輸送カートには、ユーロパレット(1200mm×800mm)を2つ積載可能。
- MAGWAY(イギリス)
- 低コストのリニアモーターを使用した完全自動運転による物流システムを計画中。
- イギリス・西ロンドン地区において、既存の鉄道敷地内に全長16kmのMagway専用線を敷設を想定。
- 大手物流事業者(DPD社等)の物流施設から、Magwayにより、小売業者等の物流施設や店舗等へ直接輸送。
- 鉄道敷地内は鉄道のレール横スペースに、駅構内はホーム下に、線路敷地から各社の物流施設へは地下等にMagway専用線の敷設を想定。
日本における自動物流道路は、高速道路の路肩や地下(高架下のことでしょうか?)に設置され、無人カートで貨物を輸送することを想定しています。この無人カートは、AGV(Automatic Guided Vehicle、無人搬送車)と呼んだほうが、分かりやすいかもしれません。AGVとは、床に貼られたガイドマーカーやRFIDなどを頼りに動く搬送車を指します。
今のところ、自動物流道路に関して分かっていることはこれくらいですね。
今月22日、岸田首相は、自動物流道路を各地の高速道路に新たに整備するため、ルートの選定を含めた基本的な計画を、夏ごろまでに策定するよう関係閣僚に指示したと報道されています。
ここからは筆者の想像です。
自動物流道路が高速道路に併設されることを前提とするのであれば、無人カートを出発・到着するターミナルも高速道路に併設されることになるでしょう。
つまり、自動物流道路用ターミナルまでは、トラックなどで貨物を横持ちする運用になることが考えられます。貨物列車の運用に近いイメージでしょうか。
無人カートは、1100mm×1100mmパレットを積載することを前提に設計されるはずです。あるいは、専用のボックスパレット(≒コンテナ)や、自動物流道路専用リーファーコンテナ(冷凍冷蔵仕様のコンテナ)が用意される可能性もあります。
冷凍冷蔵装置をコンテナ側に装着するのか、それとも無人カート側に装着するのかは、要注目です。おそらく自動物流道路による貨物輸送は、「有人トラック輸送→無人カート(自動物流道路)→有人トラック輸送」という運用になるでしょう。
このことを考えると、汎用性のあるリーファーコンテナが開発されたほうが、後のフィジカルインターネット構想などにも貢献できると考えます。
一番気になるのは、「誰が無人カートを用意し」「誰がターミナルを含めた自動物流道路全般の運用を行うのか?」です。
可能性が高いのは、「ターミナルを含めた自動物流道路全般の運用」は公団ないし公営企業が行い、無人カートは運送会社各社が用意する形だと考えます。
本来は、無人カートの運用も公団・公営企業(※準公営企業を含む)が行うべきだと思いますが、フィジカルインターネットを民間に放りだしたことを考えると、国は自動物流道路の運営への関与をなるべく避ける方向に動く気がします。
ただし、無人カートの運用を民間が行うとなると、ターミナルの運営はややこしいでしょう。あるいは、無人カートはキャリアカー(車両運搬車)のようなトラックでターミナルまで横持ちされるのでしょうか?
また、現在ダブル連結トラック運用の利便性を考え、高速道路直結型物流施設の建設が注目されつつありますが、同様に自動物流道路直結型の物流施設も登場し始めることと推測します。
先の岸田首相の発言を鑑みると、今夏には、自動物流道路に関するさらに詳細な情報が発表されることでしょう。
続報を楽しみにしましょう。