秋元通信

人材不足解消の打開策!? 「ギグワーカー」とは?

  • 2020.2.27

15年ほど前のことです。
 
その方は、編集プロダクションの部長をされていました。大手広告代理店の下請けとして、紙もの(ポスター、チラシ、パンフレットなど)を制作する会社です。

「ひとのやる気って…、あんなにも変わるものなんだね!?」

その会社では、ある時、デザイナーや編集者などの制作スタッフのうち、希望する者をフリーランス化したそうです。
正社員だった彼ら彼女らを退職させ、その代わりに業務委託契約を締結、業務内容はそのままに、フリーランスとして再契約したわけです。
 
フリーランス化に踏み切った理由は、モチベーションアップです。仕事に関する愚痴を言うばかりで残業は減らず、またアウトプットとなる制作物のクオリティも「可もなく不可もなく」なレベル。
そんな制作スタッフの意識改善を目的に、希望者を募り、フリーランス化した結果、制作物のクオリティも、納品までのリードタイム(≒制作時間)も、大きく向上したんだとか。
 
当初、社長がフリーランス化構想を明らかにした時、「そんなにうまく行かないだろう…?」と疑っていた件の部長さんですが、できすぎた結果に驚き、そして複雑な想いも抱いていたのです。
 
 
さて、今回は、聞き慣れない「ギグワーカー」を解説しつつ、フリーランスやギグワーカーがもたらす、企業と雇用者の新たな関係について考えましょう。
 
 
 

ギグワーカーとは

 
「ギグワーカー」とは、時間単位で労働を提供する労働者のことです。
 
と言うと、フリーランスと同じように思えますが、フリーランスと違うのは、業務委託ではない点にあります。フリーランスの場合、従事する職種や業務内容がどういうものであれ、基本的には「ある案件」(プロジェクト)について、その全部や一部に対する業務委託を担うケースが多いでしょう。
 
成果物に対して対価をもらうのが、フリーランス。
時間という、より純粋な労働行為にフォーカスし、対価をもらうのが、ギグワーカーと言えます。
 
もっとも、フリーランスでも時間単位で報酬をもらうことはあるでしょうし、ギグワーカーとフリーランスの違いは、実際はあいまいでしょうね。
 
 
ギグワーカーの代表例は、Uber Eatsです。物流業界を診れば、Amazon Flexが、ギグワーカーにあたります。
対して、赤帽などはギグワーカーにはあたらないのでしょう。「◯◯という荷物を、A地点からB地点まで運ぶ」わけですから、業務委託と考えられます。
 
 
ちなみに、「ギグ」(gig)とは、ミュージシャンが行う「一回限り」のライブなどを指します。Jazzミュージシャンらが集って行うセッションなども、「ギグ」です。
 
音楽用語であった「ギグ」が転じて、生まれたのが「ギグワーカー」という言葉です。
 
ちなみに、「ギグ・エコノミー」とは、単発の仕事で成り立つ経済のこと。
「ギグワーク」とは、単発仕事のことであり、「ギグ・エコノミー」で「ギグワーク」を仕事として生活する人たちのことを、「ギグワーカー」と呼びます。
 
 
 

ギグワーカー先進国、アメリカの状況

 
ギグワーカー先進国のアメリカでは、2017年5月時点で、労働力全体の約34%がギグエコノミーに関係していると推測され、また2020年までには約43%に増加すると予測されています。
 
では、ギグワーカーたちの収入はどれくらいなのでしょうか?
ある統計によれば、ギグワーカーの平均年収は、約5万8000ドル(約630万円)であり、しかも、うち40%のギグワーカーは、10万ドル(約1,090万円)以上稼いでいるそうです。
 
さきほど、ギグワーカーの代表例として、Uber EatsやAmazon Flexを挙げましたが、Uber EatsやAmazon Flexで働いても、これほどの収入を得ることは難しいでしょう。
実は、アメリカにおけるギグワーカーの40%は、専門職を持ち、博士号を持つ人も少なくないそうです。
 
これは、日本とアメリカの違いではないでしょうか。
日本においては、高収入に結びつく、特別なスキルを備えた人たちであっても、独立起業したり、もしくは副業で成功するのは、簡単とは言えません。しかし、アメリカにおいては、ギグ・エコノミーが社会に浸透し、ギグワーカーが安定的に職を得て、高収入を得るロードマップが出来上がっているのでしょう。
 
 
 

ギグワーカーを利用する、企業側のメリットは?

 
情報システム部を例に考えましょう。
ある程度の規模を備えた企業であれば、情報システム部を自前で備えています。しかし、情報システム部を自社内に構築することには、デメリットもあります。

  1. コストセンターであるため、十分な人員を用意できない。
  2. 自社業務だけを行っていると、どうしても知識が偏ってしまう。
  3. 業務と知識が属人化する可能性が高い。

ギグワーカーを必要に応じて、情報システム部で活用すれば、上記のデメリットは、以下のようにメリットに変換されます。

ⅰ.コストを最小限に抑え、必要に応じてギグワーカーに頼ることで、最適な人員体制をフレキシブルに実現できる。
ⅱ.その都度、必要に応じて、最新かつ適切な知識を持った人材を活用できる。
ⅲ.直接業務を社員が行うわけではないので、属人化が発生することは、考えにくい。むしろ、ギグワーカーから最新かつ高度な知識に対するフィードバックの恩恵が期待できる。

ただし、特に3.については、ギグワーカーに業務を丸投げしてしまうと、属人化するどころか、業務がブラックボックス化する危険があります。
それを防ぐため…、というか、ギグワーカーを適切に活用するために、業務を切り出して外出しするためには、情報システム部に必要な人材は、以下のように転換される必要があります。
 
→ 旧来型の情報システム部に必要な人材
ネットワークやサーバ保守、もしくは基幹システムにおけるプログラミングを担う、「技術型」の人材。
 
→ ギグワーカーの利用を前提とした情報システム部に必要な人材
社内の課題を的確に把握し、必要に応じたギグワーカーを選定し、またギグワーカーの業務進捗を管理できる、「プロジェクトマネージャー型」の人材。
 
「ある程度の規模を備えた企業であれば、情報システム部を自前で備えています」と書きましたが、中小企業では、情報システム部を設けることは難しいでしょう。そういった中小企業でも、ギグワーカーをうまく活用すれば、社内インフラ、サーバなどを適切に運用することができます。
 
ここでは情報システム部を例に取りましたが、ギグワーカーとして働く方々には、さまざまなスキルを持った人がいます。
必要に応じて、高度なプロフェッショナル人材を利活用できることが、ギグワーカーと企業がお付き合いするメリットです。
また、プロフェッショナル人材とお付き合いすることで、社内の人材育成にも好影響を与える可能性があるのです。
 
 
 

社員をフリーランス化した、タニタの例

 
体脂肪計や体組織計などのメーカーであり、現在はタニタ食堂を運営するなど、健康をテーマとしたビジネスを開拓し続ける株式会社タニタの取り組みをご紹介しましょう。
 
2017年、同社は、「日本活性化プロジェクト」を開始しました。

  • 社員から、「フリーランスになりたい人」を集う。
  • フリーランスになった元社員は、タニタと業務委託契約を締結する。
  • 社員時代の業務と給与をベースに、契約内容を協議した上で決定する。
  • 3年間、タニタは仕事を保障する。
  • 結果、1年目にフリーランスに移行した8人は、平均で200万円程度、26%手取りが増加した。

この社員フリーランス制度について、タニタの谷田千里社長は、実に興味深い発言をしています。
 

「私は、残業削減だけやっていたのでは日本は活性化どころか滅びるのではないかと危惧しています。決して長時間労働を称賛しているわけではありません。ただ、個人が自身の成長のためにもっと働きたいと思っているのに、残業規制があるから抑制しなくてはいけないケースがあるとしたら、それはどうなんだと」
出典:デキる社員はフリーランスで タニタ式「働き方革命」(NIKKEI STYLE)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO47493000Y9A710C1000000

 
 
 

優秀な人材を、どうやって自社の業務に組み込むのか?

 
ギグワーカーにしても、タニタの例にしても、共通するのは、優秀な人材を確保する方法論である点です。
 
乱暴な言い方をすれば、無能な社員を使うよりも、優秀な外部人材を使ったほうが、企業にとっては有益で幸せなことです。
しかし、忘れてはいけないのは、「無能な社員」が無能である原因は、企業にも責任がある可能性が高いことです。決して、無能社員本人だけの責任ではありません。
冒頭に挙げたエピソードは、その好例ですね。
 
社会が豊かになるにつれて、人々の価値観も多様化してきました。
同時に、社会の仕組みや経済も複雑化し、企業活動のすべてを社員で内製することも難しくなってきました。
 

「経営者も、雇用を名目に個人を囲い込むのではなく、働く人とよりオープンで対等な関係を結んでいく発想に切り替えていく必要があると思います」

 
これは、前出のタニタ:谷田千里社長インタビューからの引用です。
これまで、企業は優秀な社員を求めてきました。
しかし、タニタのように、優秀な人材を確保できるのであれば、必ずしも社員にこだわらず、もっと広く、さまざまな関係性、可能性を模索すべきであると考える企業も増えているのでしょう。
 
今の時代は豊かさ故に、「社員が会社に求めること」と、「会社が社員に求めること」のミスマッチが大きくなってしまっているのではないでしょうか。
だからこそ、その隙間を埋める存在として、ギグワーカーやフリーランスに注目が集まっているのかも知れません。 
 
 

出典

 
ギグワーカーだけが真の働き方改革を起こす (OFFCOMPANY)
 
デキる社員はフリーランスで タニタ式「働き方革命」 (NIKKEI STYLE)
 
社員が個人事業主に タニタの改革が合理化でない理由 (NIKKEI STYLE)


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