「ワーケーション」が、話題を集めつつあります。
ワーケーションとは、「ワーク」(Work)と、「バケーション」(Vacation)を組み合わせた造語であり、休暇を取りながら、もしくは観光地など、休暇のために赴くような場所において、仕事をすることを指します。
遊園地である、よみうりランドで行われている「アミューズメントワーケーション」を体験してきました。
その様子をレポートするとともに、ワーケーションの可能性について、考えてみましょう。
ワーケーションは、世間ではどれくらい知られ、そしてどのように考えられているのでしょうか。
クロス・マーケティング社が実施した「ワーケーションに関する調査」を紐解きましょう。
アンケートによれば、ワーケーションの認知率は7割以上。
さらに、1割が「導入している」、もしくは「導入予定」としています。
アンケートでは、テレワークの認知率が9割以上、テレワークの導入率が24.1%です。テレワークは、新型コロナウイルス対策として、政府が導入を後押ししていますが、テレワークの認知および実施数アップとともに、いわばテレワークの亜種であるワーケーションの認知率も上がっているのかもしれません。
ワーケーションの利用意向については、23.2%が「行いたい」+「やや行いたい」、41.9%が「行いたくない」+「あまり行いたくない」、34.9%が「どちらとも言えない」となっています。
ワーケーションという言葉は広まりつつありますが、どのようにワーケーションを行うのか、その実態は、知られていないのが現状でしょう。もっと言えば、ワーケーションの最適なあり方は、今まさに模索されている最中です。
そんな中、2割強の人が、ワーケーションに興味を持っているというのは、期待の高さがうかがわれます。
アンケートから得られた、ワーケーションに対し、期待すること、懸念することも挙げておきましょう。
- 精神的な余裕が得られる。
- 普段の生活環境で感じるストレスから解放される。
- オフィスから離れることで、業務に集中できる。
- 観光ができる。
- 休暇を取得しやすい。
- 新しい価値観や文化に触れられる。
- 仕事と休暇のメリハリがつけにくい。
- 費用がかかる。
- 仕事の関係者から理解が得にくい。
- 生産性が落ちる。
- 情報漏えいが不安。
- 組織として負担する交通費や宿泊費の整理。
なるほど、ワーケーションに対する期待と不安が、透けて見えるような結果ではないでしょうか。
日本人は、世間体を気にします。働くことはマジメでなければならないわけですし、だからこそ、カフェでノートPCを開き、仕事をする人に対し、「ドヤラー」なるスラングも生まれるのでしょう。
観光・休暇で訪れるような、非日常の空間で仕事をしてみたいという興味はあるものの、仲間、もしくは取引先からは、どのように思われるのだろうか…
そう思う人が多いのは、致し方ないことでしょう。
よみうりランドでは、「アミューズメントワーケーション」と称し、プールサイドをコワーキングスペースとして開放するサービスを開始しました。
「これはネタになる…」、ネタ作りのプレッシャーと日々向き合う私にとって、これは体験せねばなりません。
私が赴いたのは、10月26日(月)のこと。
朝9:30からワーケーションの予約をした私は、中学生やら高校生にまじり、よみうりランド行きのバスに乗り込みます。この時期、土日は体育祭や文化祭が行われ、月曜が振替休日になる学校も多いのだとか。
居心地の悪さを感じながら、よみうりランドの入場口に向かうと、既に思いのほか、多くの人が並んでいます。
よみうりランドの開園は、10:00。
しかし、ワーケーションは、9:00から利用できます。開園を待つ人々を尻目に、受付をする私にスタッフから声が掛かりました。
「ドイツのTV局が、取材をしたいと言っているのですが」
ドイツの国営放送:ドイツ公共放送連盟(ARD)が取材をさせて欲しいとのこと。
おもしろそうだったので、ふたつ返事で承諾しました。
よみうりランドのアミューズメントワーケーションは、予約制になっています。
一日の定員は、11名。当日は、4組5名の利用者がいました。
仕事場として提供されるのは、プールサイド、つまり野外です。
簡易的な木枠で仕切られたスペースに、ビーチチェアと小さな机が用意されています。Wi-Fiと電源はあるものの、これはそもそも設置されていたものでしょう。つまり、良くも悪くも、夏季はプールとして営業しているスペースと設備を、そのままワーケーションスペースとして提供しています。当然、椅子やら机やらは、仕事用のものではありません。
私も、ビーチチェアでPCを広げ、仕事をしたのは初めての経験でした。
当日は天候もよく、首筋にあたる日差しが暑いくらいでした。ちなみに、雨が降った場合には、近くにあるレストランが仕事スペースとして提供されるそうです。
園内には、遊園地本来の楽しみ方を満喫する親子連れや、中高生らがいます。
アミューズメント施設、例えばジェットコースターに代表される絶叫マシンのメカニカルノイズも聞こえてきますし、各アミューズメント施設を案内するスタッフたちの声、お客さんたちの笑い声も聞こえてきます。
が、しかし…
これがまったく気にならないんですよね。
都内のカフェで仕事をするときには、キーボードをやけに強いチカラで叩く人が隣に来ると、気になったりもするのですが。ここでは、女子高生の笑い声すら、仕事への集中を導くBGMのように感じます。
不思議でした。
私は、普段から外出先で仕事をすることがよくあります。
そのため、事務所などではない、いわばアウェイな空間で仕事をすることには慣れています。そういう私ですら、遊園地という非日常空間で、仕事と向き合うことで、集中力のスイッチが入ったのでしょう。
とても気持ちよく、そして生産性の高い仕事ができました。
よみうりランドが提供するアミューズメントワーケーションの売り、それは観覧車のゴンドラを一時間貸し切りにできることです。
ちなみに、観覧車のゴンドラ内でも仕事ができるように、ポータブル電源とWi-Fiルーターも貸してくれます。
一時間の間に、観覧車は5周します。
最初に1周はひとりで搭乗。景色を眺めたり、写真を撮ったり、ひとりで盛り上がっている内に、1周目は終了。
2周目は、ドイツテレビのカメラマンと通訳が乗り込み、番組撮影のために、当社常務:鈴木とオンラインミーティングを行いました。
3周目は、インタビューを受け、4周目、5周目でようやく仕事開始です。
ちなみに、この原稿のプロットは、ゴンドラ内で書き上げました。
アミューズメントワーケーションの料金は、1,900円(平日)です。
ワーケーション利用時間は、16:00まで。ただし、料金には入園料も含まれ、16時以降も、園内に滞在することができます。折しも、よみうりランドでは、イルミネーションが行われていました。イルミネーションの撮影も行った私が、退園したのは19時過ぎ。
コワーキングスペースの利用料金としても、一日滞在して1,900円という値段は、お手頃です。
さらに、遊園地も楽しめるわけですから。これはかなりお得です。
ちなみに、アミューズメントの利用料金は、ワーケーション利用料には含まれていません。アミューズメントも楽しみたい方は、別途利用券を購入してくださいね。
よみうりランドのアミューズメントワーケーションは、ワーケーションの中でも、特殊なものでしょう。
観光地にあるホテルや旅館などで行われるスタイルが、一般的なワーケーションだと思います。
とは言え、今回体験したよみうりランドのワーケーションには、ワーケーション普及につながる、多くのヒントがありました。
ワーケーションが普及し、一般化するために必要なことを考えてみましょう。
- 仕事を快適に行うためのハード/インフラの整備
よみうりランドでは、観覧車内でも仕事ができるように、ポータブル電源、Wi-Fiルーターも貸し出していました。
また、コワーキングスペースでも、ディスプレイや電源タップ、プリンター、スキャナー、コピー機などの貸し出しを行っているところが多くあります。
Wi-Fiなどのネットワークは必須ですが、仕事をする上で必要な設備や機器を提供できるかどうかは、特に宿泊を伴い、数日間にわたりワーケーションを行う上では欠かせない要素になるでしょう。
ホテルや旅館の机や椅子は、背が低かったり、もしくは広さが足りないなど、仕事をする上では不適なケースもあるでしょう。客室内に仕事用の机と椅子を用意したり、ホテルや旅館の中、もしくは観光地内にコワーキングスペースを設けることも必要になってくるかもしれません。
もちろん、ワーケーションを実現するためには、企業側のインフラ整備も必要です。
リモート環境でも仕事ができるように、グループウェアや業務システムをクラウド化したり、もしくはリモートアクセスを可能とするインフラ整備が求められます。
- ワーケーション提供側のホスピタリティ見直し
私は、アミューズメントを楽しんでいる皆さんの歓声は気になりませんでしたが、気になる人もいるでしょうね。
私自身も、数日間よみうりランド内で仕事を続けていたら、やがて気になるようになるかもしれません。
仕事をする人と、遊ぶ人を同じ空間に共有させるのは、基本はNGではないでしょうか。
さらに言えば、余暇として訪れた宿泊客と、ワーケーションを目的とした訪問客では、迎える側に求められるホスピタリティも変わってくるはずです。
ワーケーションに求められるホスピタリティとは、どんなものなのか?
これは、これから模索し、創り上げていく必要があるのでしょう。
- 「何故、ワーケーションを行うのか?」
- 「仕事と休暇のメリハリがつけにくい」 (ワーケーションへの懸念点 【自分自身が行う場合】)
- 「生産性が落ちる」 (ワーケーションへの懸念点 【組織へ導入する場合】)
現在のところ、ワーケーションは、提供する側のビジネスメリットが先行している感があります。
観光地の宿泊施設からすれば、閑散期にワーケーションを謳い、宿泊者が訪れてくれれば、売上向上を期待できます。
先のワーケーションに関するアンケートを振り返りましょう。
これはダメですよ。
ワーケーションと称し、休暇中にも仕事を強いる企業がいるとしたら、それはブラックです。
ワーケーションによって仕事の効率が落ちるとしたら、企業としては、わざわざ手間とコストを掛けて、ワーケーション制度を社内に設ける必然性がなくなります。
ワーケーションを何故行うのか?
それは、ワーケーションを行うことによって、生産性向上が見込まれるからでなくてはなりません。
かつて、私の知る企業では、集中的にブレインストーミングを行うと称し、会社の保養所にプロジェクトメンバーを全員招集し、しかし実際には昼食からビールを呑み始め、午後は宴会三昧をしているという話もありました。
一方、別の企業では、保養所に社員を缶詰にし、朝から日付が変わるまで、徹底的に商品開発会議を続けるという話も聞いたことがあります。
こういったケースは論外ですが。
働き方改革が叫ばれ、働き方改革関連法案が施行され、残業規制がしかれた今、私たちの仕事観は、見直しを余儀なくされています。
限られた時間内に、より価値のあるアウトプットを生み出す生産性向上は、もはや待ったなしです。
「ワーケーションって、遊びながら仕事できるってことでしょう? 仕事名目で温泉地に行けるとか、憧れるよね」
そんな甘えた認識がはびこっているうちは、ワーケーションが日本社会に根付くことは難しいでしょう。
仕事は徹底的にアウトプットにこだわって行い、就業時間が過ぎたら、気持ちを切り替え、思いっきり楽しむ。
そんな、メリハリが効いた、仕事効率をブーストする手段として、ワーケーションが広まることを期待したいです。
そう言えば。
今、都市近郊のキャンプ場では、昼間はキャンピングカーで仕事を行いながら、夜はアウトドアを楽しむ人たちが現れてきているそうです。
いいですね…
と言うか、キャンピングカーって、それなりのお値段がしますし、普段からメリハリの効いた、良い仕事ができている人なのでしょう。
私も、いつかそんな仕事も遊びも達人になれる日が来るんでしょうかね??