秋元通信

話題のITワード、「サイロ化」とは?

  • 2021.4.14


 
 
「サイロ化」というキーワードが話題になっています。
「サイロ化」は、DXを語る文脈でたびたび登場するキーワードであり、ITワードのひとつなのですが。組織論を論じるキーワードであることから、経営学、もしくは社会人の一般常識として、今後より広く使われるかもしれないキーワードです。
 
今回は、話題のキーワード、「サイロ化」について、考えましょう。
 
 

サイロ化とは?

 
サイロとは、工業材料や家畜用の飼料などの貯蔵施設のことです。
例えば、秋元運輸倉庫の川崎営業所、袖ヶ浦営業所では、セメントを貯蔵するサイロがあります。牧場に行き、草原にそびえ立つ、細長く筒状の飼料用サイロをご覧になった方もいることでしょう。
 
サイロ化とは、企業において、業務システム、あるいは業務そのものが孤立化し、企業内で稼働する他業務システムや業務から、分断されている状態を指します。
 
サイロ化は、例えば部署単位で発生することがあります。
一例を挙げましょう。
 
 
 

サイロ化の一例

 
あきもと商事(もちろん、架空の会社です)では、各営業所長が広く裁量権を持っています。
 
営業所Aでは、営業、もしくは事務員との連絡用として、LINEを使い始めました。
「普段から使っている人が多いから」、ある営業部員の進言を受け、営業所内でのLINE使用を決定したのです。
 
一方、名刺管理システムは、無料の名刺管理システムAを利用しています。
どちらも、本社の承認は得ていません。もともと営業所長の裁量可能範囲が広い上、どちらも無料ツールなので、承認を得る必要はないと、営業所長は考えたのです。
 
 
ある日、とある案件で、営業所Bと協力する必要が出てきました。
相手は、全国に拠点を持つ大企業です。地域担当で営業所を設けているあきもと商事でも、複数の営業所が協力しなければ、案件獲得は難しいです。
 
「お互いの営業情報を共有しようよ!」
 
営業所A、Bの所長は、このように話しました。当然ですよね。
ところが、いざ情報共有を実現しようとすると、思わぬ壁にぶつかります。
 
営業所Bでは、Slackを使って、所内の連絡を行っていたからです。
 
「今どき、LINEはないだろう…。ビジネスチャットなら、Slackのほうが間違いないって!」
「いや、そもそもSlackって何?」
 
お互いの営業部員同士の会話は噛み合いません。
すったもんだの挙げ句、お互いにLINEとSlackの両方を使うことになりました。
 
ところが、今度が情報が一元管理されていないので、「あの話はどうなった?」と、お互いにLINEとSlackの履歴を探りはじめる始末です。
さらに、名刺管理システムも課題になりました。営業所Bでは、有料の名刺管理サービスを使っていたのです。
 
お客様の連絡先は、常に共有しておく必要があります。
こまった営業所A、Bでは、件のお客様の名刺情報だけ、Excelに書き出して保管することにしました。新たな名刺が追加されると、お互いの事務員がExcelファイルを更新して、営業所AおよびBの全営業部員、全事務員にメールするのです。
 
手間ばっかり掛かって、かえって効率悪くないか…?
 
皆がうんざりし始めたところで、大問題が発生します。
 
ある事務員が、名刺情報、つまり個人情報をまとめたExcelファイルを、間違って、まったく関係のないお客様にメール送信してしまったのです。
 
こうなると、コトは営業所AおよびBだけの課題ではなくなります。
企業としての対策を求められた、あきもと商事本社では、決断をします。
 
「LINEもSlackも禁止!チャットツールは、Teamsに一本化すること。
 名刺管理も含め、すべてMicrosoft Office365と、その関連アプリに統一しなさい!」
 
また新しいツールを使うのか…
もう、営業所A、Bの全員がうんざりです。それどころか、他営業所からもイヤミを言われる始末。
 
「あなた方がやらかさなければ、ウチはFacebookメッセンジャーを使い続けられたのに」
 
とは言え、過去のチャット履歴は、大切で役に立つ情報ソースです。
営業所A、Bでは、表向きTeamsを使いつつも、影ではLINE、Slackを未だに使い続けています。所長も分かってはいるのですが。今までの営業手法をかんたんに変えられない現実も理解しているので、見て見ぬふりをせざるを得ないのです。
 
 

サイロ化の課題とは

 
あきもと商事の例では、営業所がサイロ化の単位であり、温床となっていました。
先のエピソードで、もっとも問題になった点は、何でしょうか?
 
サイロ化は、サイロ化された域内では何も問題になりません。
むしろ、営業所AやBは、チャットツールや名刺管理システムを導入することで、営業所内の情報共有に関しては、効率化を実現していました。
 
ですが、サイロの外、つまり営業所の垣根をまたいだ情報共有を行おうとした時に、今まで便利に使っていて、業務の効率化にも貢献していたはずのチャットツールが、足かせと化したのです。
 
 
経済産業省が2019年9月に発表した「DXレポート」では、「2025年の崖」の課題として、以下が挙げられています。
 

  • 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができない。
  • 爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争の敗者になる。

 
情報って、大切ですよ。
その重要度は、近年、加速度的に増しています。データアナリスト、データサイエンティストなどと呼ばれる、データ分析を専門とする人材を、ユニクロなどの大手企業が、こぞって高待遇採用していることは、皆さまもニュース等で聞いたことがあるかもしれません。
こういった企業は、データ(情報)の活用を今後の企業経営における重要な要素であると考えているのです。
 
先のエピソードでは、分かりやすくチャットツールを例に、架空のエピソードをこしらえましたが、コトが業務システムだったら、もっと大変なことになります。
 
チャットツールで困るのは、基本個人単位です。
「あの情報はどこだっけ?」、探すにしても、営業部員、もしくは事務員が、個人のチャットツールの中身を検索する手間をかければ、なんとかなるでしょう。
 
ところが、業務システムの場合は、そうはいきません。
WMSを例に取りましょう。
あるメーカーにおいて、各営業所、各物流センターごとに異なるWMSを使用していたら、どうなりますか?
異なるWMSの在庫と入出荷データを突き合わせ、最適な生産計画を立案しようとすれば…、気の遠くなるような手間がかかることでしょう。
サプライチェーンの最適化なんて、夢のまた夢です。
 
サイロ化は、業務の効率化を図る上でも課題となります。全社的な情報活用の阻害要因となってしまうからです。
 
繰り返しましょう。
現代の企業経営において、情報活用は喫緊の課題です。
例えば、利益拡大のヒントは、過去の膨大な販売データの中に埋もれている可能性があるのですから。
 
サイロ化は、企業内におけるシステム連携レベルの不都合ではなく、今後の企業戦略、成長の可能性すら左右しかねない重要な課題なのです。
 
 

ITと経営が密接する時代だからこそ

 
サイロ化の原因って、何でしょう?
さまざまな議論がありますが、私は、経営が十分なIT戦略を持っていないことが、最大の原因だと考えます。
 
「DXレポート2」(経済産業省 2020年12月)では、システムのカスタマイズをCEOの承認事項とした事例が紹介されています。
きっとこの会社は、システムが経営に直結していることを自覚しているのでしょう。
システムのカスタマイズは、時としてシステムの効果や、目的そのものを歪めることがあります。
システム導入は、業務の仕組みを構築するために行うものです。
つまり、現場で好き勝手なステムカスタマイズを行うことは、構築しようとしている業務の仕組みを歪める可能性があります。
仕組みを作るのは、本来経営の仕事です。だから、この会社は、カスタマイズをCEOの承認事項としたのでしょう。
 
 
サイロ化は、たびたび全体最適化vs部分最適化の議論とともに語られます。
言ってみれば、サイロ化は、部分最適化を目指した結果なわけですから。
 
しかし、全体最適化と部分最適化に絶対的な優劣はつけにくいです。部分最適化から始まる全体最適化だってありますし、逆もまたしかりだからです。
 
だからこそ、経営レベルにおけるIT戦略を設けておくことが必要になります。
野放しではない、コントロール可能な範囲内の部分最適化を実施するためにも、システム導入には広い視野をもって検討することが必要ですが、議論の際には、全社員が共通のものさし、もしくはビジョンを見据えていることが大切になります。
ものさしであり、ビジョンを導くものが、IT戦略の役目なのです。
 
とは言え、現実的には、その前段階、つまり「今、私の会社ではサイロ化が発生しているかどうか?」を把握するだけで、困難が伴うでしょうね。
 
 
「サイロ化」は、今後より注目されていくキーワードのひとつでしょう。
現在はITワードとして認識されていますが、今後は経営学まで利用範囲が拡大していくのかもしれません。
本記事が、皆さまの知識を豊かにする糧となれば幸いです。


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