秋元通信

なんのために働いているのか?──ゾンビ業務、ゾンビ社員の課題

  • 2022.4.27

「あの人、駄目でしょ!!」──筆者の目の前には、テールゲートしてセキュリティエリアに入ろうとする50代と思しき男性がいました。テールデート(「伴連れ、共連れ)」とも言います)とは、セキュリティエリアに入室するのに、IDカード等、正規のセキュリティ通過手段を用いず、誰かがゲートを開けたすきを狙って侵入する行為を指します。
 
当時私は、大手システム会社のグループ会社にいました。親会社はセキュリティが厳しく、ビルへの入室はもちろん、各フロア、各エリアへの入出権限は、与えられたIDカードごとに細かくコントロールされていました。
 
件の男性は、よりにもよって一番セキュリティの厳しいエリアに、テールゲートで入室していったのです。
 
ところが、私とともにいた部長は、苦笑しつつも、件の男性を眺めています。
不審そうな私の視線に気づいた部長が説明してくれました。
 
件の男性は、その事業所内では、ゾンビ男と呼ばれる有名人なんだとか。
あるときからまったく仕事をしなくなり、「オフィスの警備をしなきゃ!」と言いつつ、ビル内を徘徊するようになったそうです。誰が止めてもやめません。そこで、会社側は彼のIDパスのセキュリティ権限をコントロールし、最低限のエリアしか入室できないようにしました。ところが今度は、テールゲートを繰り返し、ビル内全エリアを徘徊するようになったのです。
 
ときには、私のように彼のテールゲート行為に気づき、彼のことを注意する人もいました。ところが、注意されると、彼は意味不明なことを言いながら、注意した当人に食ってかかるそうです。
 
日本では、法令によって、労働者の権利は手厚く保護されています。
親会社では、彼を解雇することもできず、なにか悪さをする様子もないので、彼の行為を黙認していたのです。
 
「目的もなく、一日中ずっとビル内を徘徊している様子を見て、誰かが『ゾンビ男』ってネーミングしたら、それが広まっちゃったんだな」──セキュリティエリアに入っていく彼の背中を眺めながら、部長はこのように説明してくれました。
 
 
 

最近話題のゾンビ社員とは

 
ところで最近巷ではゾンビ社員になる言葉が生まれているそうです。ゾンビは死者、すなわち魂を失っても歩き回る死体を指します。
転じて魂のない仕事をする、もしくは魂のない働き方をするサラリーマンのことをゾンビ社員と呼ぶそうです。誰が考えたんでしょうね、うまいことを言うものです。
 
さらにゾンビ業務というものもあります。これは業務遂行の目的も不明で、会社のビジョンやミッションとも無関係な業務のことを指すんだとか。
 
 
 

ゾンビ業務とは

 
ゾンビ業務を定義するのは難しいです。
明らかに無駄な業務は、もちろんゾンビ業務ですが、世の中、そんなに分かりやすいゾンビ業務ばかりとは限りません。ポイントは、「会社のビジョンやミッションと無関係な業務」である点です。
 
かつて私は、携帯電話の代理店にいました。私の担当は、家電量販店などに携帯電話を卸すことでした。量販店での携帯電話販売においては、(少なくとも当時は)代理店側が販売員を量販店に派遣し、携帯電話の説明や契約手続きなどを販売員に行わせることが、一般的に行われていました。
 
私も、担当する量販店において、数十名の販売員を派遣していました。
 
問題児が一人いました。
彼女は、派遣された量販店において、携帯電話の販売だけではなく、他製品の接客・販売、店の掃除、店卸、レジ打ちなども行っていました。掃除は協力すべきではありますが、レジ打ちはマズイです。レジ内の金額が合わない、すなわち違算が発生した場合は責任問題になり、私の会社に被害が及ぶ可能性があります。また、彼女の販売成績を診れば、本来の職務であるはずの携帯電話販売に身が入っていないのは一目瞭然でした。
 
私は彼女と何度も話したのですが、彼女は頑なでした。
 
「お店の売上や運営に貢献することも、大切なことですよね?」
 
もちろんその通り。ですが、優先順位は、本来のミッションである携帯電話を売ることの方が高くなければなりません。
 
「では私を首にしますか?私がいなくなったら、この店の携帯電話の売上はゼロになりますよ」
 
ここまで開き直ることができるのも、ある意味大したものです。
 
私は件の量販店において、さまざまな営業施策を実施しました。
前任者に比べ、売上は2倍以上に伸びました。しかし、彼女の担当する店舗の売上は、伸びはしたものの、他店舗の伸びには追いついていませんでした。
 
ある日、転機が訪れました。
私の勤める会社の経営が悪化し、事業縮小を決定したのです。件の量販店とも、代理店契約を解消することになりました。
 
私は異動し、すでに件の量販店の担当ではありませんでした。
後任の担当者は、後釜の携帯電話代理店と交渉し、販売員たちをそのまま継続雇用してもらう確約を取り付けました。ところが、後釜の代理店では販売数を伸ばすことができず…、というか、売上を1/5以下に減らしてしまいました。多くの販売員は、後釜代理店と取引のある他量販店や携帯電話ショップに異動しましたが、問題の女性販売員はクビになってしまいました。
本来のミッションであるはずの携帯電話販売を疎かにする彼女に、後釜代理店は見切りをつけたのです。
 
彼女は、私に電話を掛けてきました。
「お店に直接雇ってもらえないの?」──愚痴を言い続ける彼女に、私はこのように聞きました。
 
「断られました」、チカラなく応える彼女に、さすがに私も同情しました。
 
店側としては、無料の労働力(※彼女への給与は、私の会社が払っていたわけですから)だからこそ、彼女の価値があったわけです。そして実は、店にとっても、本来の携帯電話販売で結果を残さず、適当な雑用ばかりをしたがる彼女に、少々困惑していました。
 
「この人は、雇用という指揮命令系統に従うことなく、自分のやりたいことを、やりたいようにするだけなんだな。仕事の意味や価値を理解していないんだな」──実は、この店の店長は、このように考えており、私に話してくれたことがありました。
 
ゾンビ業務に固執し、結果自らゾンビ社員と成り下がった彼女は、その責任を自身の契約解除という形で償うことなったのです。
 
 
ゾンビ社員の文脈とともに、最近話題に挙がることが増えているのが、50代以上のサラリーマン、とりわけ課長、部長、執行役員などの高い職位・管掌の人たちです。
 
この話題は、次号で展開しましょう。
お楽しみに!


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