マクドナルドが現在放送している「枝豆コーン」のCMがかわいすぎます。
ハッピーセットとは、おもちゃが付いたマクドナルドの子ども向けセット商品です。ハッピーセットでは、ポテトの代わりに枝豆コーンが付いてきます。
少し食べて、枝豆コーンの入った容器のふたを締めてしまう男の子。
枝豆コーンを前に、「えっ、これ食べるの?」と聞いた後、明らかにテンションが下がった女の子の様子には、「あの~、野菜の中ではおいしい方かと思いますが…」とナレーションが入ります。
筆者のツボは、枝豆コーンを食べながら、「あとでポテトも買ってな!」という男の子です。
CMでは、枝豆コーンを嫌がる子どもたちが次々と登場します。と言うか、嫌がる子どもしか登場しません。
なぜ、マクドナルドは、あえて売り物(枝豆コーン)を嫌がる子どもたちの様子を、次々と紹介するCMを作ったのでしょうか?
今回は、ネガティブな情報をあえて先に出すことで、商品やサービスのアピールポイントを強調するネガティブアプローチについて解説しましょう。
ネガティブアプローチをCMで人気を集めた商品に、キューサイの青汁があります。
CMは、以下のような構成になっています。
- 主に悪役で活躍していた名バイプレイヤー 八名信夫さんが、いかにも飲みにくそうに青汁を飲み干す。
- 「ああ~~~、まずい!」と言った後、「もう一杯!」と言いながら、カメラに向かって空いたグラスを差し出す。
- 八名さんが、「青汁は、本当に身体にいいんです」と言った後、商品説明と通販受付用の電話番号を告知。
実はこのCM、脚本では「うまい、もう一杯」だったのに、八名さんが思わず「まずい!」と言ってしまった本音のテイクをCMで採用したという噂があります。
つまり、計算で生み出されたCMではないのですが、このCMにはネガティブアプローチのエキスがたっぷりと詰まっています。
- 製品の短所(≒「まずい」)を、最初に伝えたこと。
- 最初に短所を伝えたことで、長所(≒「身体に良い」)が引き立ったこと。
- つかみが抜群で、視聴者の記憶にしっかりと残るインパクトを生み出せたこと。
名作ですよ、このCM。
良くも悪くも、「青汁はまずい」「でも、健康に良い」という印象を、広く日本に普及させたのは、このCMの影響でしょう。(今の青汁は美味しいですけどね。念のため…)
良薬口に苦しという言葉があることから、「健康に良いんだからまずいのも仕方ないよね」、もっと言えば「あんなにまずそうなんだから、さぞかし身体に良いんだろう!」と視聴者の心理をリードする効果も働いたことと考えられます。
「わざわざマイナスな情報を伝える必要はないんじゃないかな?」、このように思う人もいるかもしれません。ネガティブアプローチは、あえて製品・サービスなどの短所を強調してアピールする方法ですからね。
ネガティブアプローチのメリットであり効果を考えましょう。
- インパクトを与えられる。印象に残りやすい。
- 最初に短所を伝えることで、その後に伝える長所を強調できる。
- 短所を自ら明かすことで、反論を潰しやすい。
青汁CMを例に取りましょう。
1.については言うまでもありません。最初から、「まずい」と言ってしまうわけですから。
2.については、短所を先に述べることで、「健康に良い」という長所アピールを強調できています。実はこのCM、どのように健康に良いのかは、一切説明していません。現在のCMだったらありえない話です。
しかし、「まずい、もう一杯」というつかみを用いることで、「あれだけまずそうなのに、もう一杯飲もうと思う理由は?」と視聴者に想起させ、「青汁は、本当に身体にいいんです」とたたみかけることで、「そうか、身体には良いんだな」と感覚的に納得させるわけです。
3.については、特にSNSやら口コミが普及した現代こそ、大切なポイントとなりえます。
仮にですが、当時のキューサイの青汁が現在に蘇った場合の反応を考えてみましょう。
もし、「うまい、もう一杯」というポジティブアプローチCMだった場合、SNS・クチコミでは、どんな投稿と反応が生じるでしょうか?
- 「いや、青汁はホントはまずいぞ」という、製品本来の評価。
- 「嘘を言うにもほどがあるぞ」という、メーカーに対する評価。
- 「嘘を言って売りつけようとするなんてひどいな」という、製品の購入意欲を削ぐ悪評の流布。
特に現在においては、ネガティブアプローチの効果はより高まっているのかもしれません。
枝豆コーンCMの場合は、少しアプローチ方法が違います。
この場合、ネガティブなメッセージを発しているのは子どもですが、実際に商品を購入するのは、子どもではなく親になります。
枝豆コーンCMは、野菜嫌いの子どもに対し、枝豆コーンという食事の選択肢があることを、親に対して提案する内容となっています。
子どもの野菜嫌いに悩む親は多いでしょう。
そんな親に対し、「ハッピーセットだったら…、食べてくれるかもしれませんよ!」というメッセージを伝えているわけです。
枝豆コーンに否定的な反応を示す、ユーモラスで愛らしい子どもたちの様子を次々と紹介することで、視聴者の好感を獲得する効果もあるでしょう。話題性もあります。
枝豆コーンのCMをあえて評価するならば、ネガティブなアプローチに見せかけた、ポジティブアプローチと言うべきでしょうか。
これも、ネガティブアプローチのバリエーションの一つです。
CMやネット広告などは、ネガティブアプローチが使いやすい媒体です。
他にも、コンペやセミナーなどのプレゼンテーションでも、ネガティブアプローチは効果を発揮します。
例えば、自社ソリューションである配車システムをアピールする方法として、セミナーを行うとします。
冒頭で、「配車システムなんて、使えないと思っていませんか?」と問題提起を投げかけ、そのように思われる理由を挙げます。
- 現在、配車担当者が作成する配車と、同じレベルの配車を再現できない。
- 電話やFAXでやりとりしている受注情報をデータ化することが難しい。
- 配車担当者のPCスキルが低く、配車システムを利用できるか不安がある。
このようなネガティブな情報を先に挙げてしまい、セミナー中盤では、これら否定要素をひとつづつ潰していくわけです。そしてセミナー終盤で、配車システムを使うメリットを説明します。
メルマガ「秋元通信」読者の皆さまは、物流系テーマを取り上げたセミナーに参加する機会もあるでしょう。
どうですか、最近のセミナーって、冒頭の入りは、ほぼ同じではないですか?
いわく、トラックドライバーの人手不足、物流の2024年問題、物流コスト上昇の問題など、耳タコな話をあちこちで聞き続けている方もいるでしょう。
ネガティブアプローチを活用することで、セミナーの鮮度や視聴者の食いつきを変える効果が期待できます。
余談です。
枝豆コーンCMに登場し、「あとでポテトも買ってな!」と言った男の子のように、子どもってポテト好きですよね。
筆者は幼少時、ホテルのバイキング(確か、品川プリンスホテルだった記憶が…)でポテトばかりを取り、母から「もっと高価なものを食べなさいよ…」と呆れられたことがあります。
ローストビーフなんて、子どもの頃は、まったく美味しいと思わなかったですもんね。
もっとも、もし子どもが同じことをしたら、僕もきっと同じことを言うでしょう(笑