秋元通信

自己評価が高すぎるダニングクルーガー効果、そんな困った人と適切に付き合う方法を考える

  • 2022.10.31

「僕は営業なんかに負けないくらい、ガンガンお客さんにトークできるんだからね!」──これは、以前お付き合いのあった、あるデザインオフィスのチーフディレクターの口癖でした。
 
この方、いろいろな意味で、困った人でした。
 
例えば、コンペ参加のために、事前にお客さまにヒアリングに行ったときのことです。
彼は、RFP(入札仕様書)を見るやいなや、お客さまに対しマシンガントークを繰り広げ始めました。お客さまが一言発すると、彼が10倍くらいの分量で返事(いや、もはや返事ですら無いんですけど)する感じですね。
 
「これ、マズイな…」と私は思いましたが。下請けとは言え、年齢が上のチーフディレクターを、しかもお客さまの前でたしなめるわけにもいきません。
打ち合わせが終わって、ちょうど私がオフィスに帰社したタイミングで、お客さまから電話がかかってきました。
 
「あのさ、さっきの人、大丈夫かな? ヒアリングというよりは、持論をまくし立てて帰っていった印象なんだけど??」
 
幸いなことに、私はコンペ先の企業と長年に渡ってお付き合いがありました。コンペの事前ヒアリングは、デザインオフィスのために行ったものであり、私自身はあらためてヒアリングする必要などないくらい、コンペ先企業のことを知っていました。
 
後日、コンペのためのプレゼンテーションが行われました。
反応は上々だったのですが、件のチーフディレクターが私に詰め寄ってきました。
 
「ちょっと!、僕が書いた提案資料、ほとんど使ってないじゃない!?!?」
 
このデザインオフィスであり、チーフディレクターのデザイン能力は優秀でした。
そこで、私はデザイン画だけを採用し、提案資料を丸々作り直していたのです。
 
チーフディレクターの作成した提案書は、一般論として判断すれば十分秀逸なものでした。しかし、提案書の中には、お客さまがいなかったんですね。
 
いくら一般論として優れた提案書でも、お客さまが抱える課題や、お客様特有の事情を考慮していないものは、お客さまの琴線に触れることはありません。
 
このチーフディレクターは、デザイン能力だけは本物でしたが、コミュニケーション能力、提案力、ヒアリング能力等、ディレクターとして求められる能力は、ダメでした。
 
 
世の中には、このチーフディレクターのように、自身の能力に問題があるにも関わらず自信過剰な人がいます。このような心理現象のことを、ダニングクルーガー効果と呼びます。
 
 
 

ダニングクルーガー効果とは

 

「ダニング=クルーガー効果(ダニング=クルーガーこうか、英: Dunning?Kruger effect)とは、能力の低い人は自分の能力を過大評価する、という認知バイアスについての仮説である」

出典:Wikipedia

 
ダニングクルーガー効果の原因には、優越の錯覚という、認知バイアスの誤認が挙げられています。
ある種類の人々は、それまでの経験や先入観、直感などに支配されてしまい、自身、あるいは他者に対し、正しい評価を下すことができないと考えられています。
 
ダニングクルーガー効果を定義した、デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーは、2012年に「なぜ能力の低い人間は自身を素晴らしいと思い込むのか」という調査を行い、以下のような結論を報告しています。
 

  • 自身の能力が不足していることを認識できない。
  • 自身の能力の不十分さの程度を認識できない。
  • 他者の能力の高さを正確に推定できない。
  • その能力について実際に訓練を積んだ後であれば、自身の能力の欠如を認識できる。

 
 
 

ダニングクルーガー効果とは逆?、インポスター症候群とは

 
以前、以下記事において、インポスター症候群をご紹介したことがあります。
 
「負の感情」の心理学
 

「自分が得た成功や評価を、自分自身の努力や実力、才能によるものではなく、『たまたま』運良く手にした結果であり、自分自身は、偽りの結果を、周囲の人を騙して手に入れた詐欺師であると考えています」

 
記事では、このようにインポスター症候群の人々を説明しています。
 
ダニングクルーガー効果が「能力が低い人が、自身の能力を過大評価してしまう」ことに対し、インポスター症候群は「一定以上の能力を備える人が、自身の能力を過小評価してしまう」という点で、両者は相反するような心理現象と言えます。
 
 
 

「自己評価が高いことはダメなのか?」

 
微妙ですね。
ただ、自己評価が低い人(インポスター症候群の人)は、時として心を病んでしまうことがあることには、注視する必要があります。
 
先の “「負の感情」の心理学” でも、かつての私の同僚女性社員が、自己評価の低さから無謀な努力(と言い切ってしまいましょう)を費やし、やがて心を病んで退職していったエピソードをご紹介しました。
 
対して、自己評価が高いことは、自己肯定感の高さにもつながり、当人の心理状態にはプラスに働くことも多いです。もちろん、高すぎる自己評価が災いし、周囲からの評価のギャップに苦しみ、心を病む人はいます。しかし、インポスター症候群と比べると、自身の心理的安全性については高いと言えるでしょう。
 
周囲の人からすれば、困った人であるのは事実ですけど。
 
 
 

自己評価の高すぎる人と上手に付き合う方法

 
ダニングクルーガー効果な困った人には、いくつか短所があります。
 

  • 成長し、自己のスキルを磨くことに難点を抱える人が多い。
  • 騙されやすい。
  • 他責思考・他責傾向が強い。
  • 円滑な人間関係を構築しにくい。

 
プライベートな知人であれば、こういう人とは距離を置くことを勧めます。
ただ、仕事上の仲間、会社の同僚などの場合、なかなか難しいです。
 
「ダニングクルーガー効果」で検索すると、このような人々とお付き合いする方法がいくつも出てきますが。私は、「相手を正そうとするのではなく、求める結果や利益に結びつく方法を考える」ことが、得策だと考えています。
 
間違った自己主張を、しかも声高に行う人と出会うと、その人の誤りを正したくなってしまうのは人の常です。でも、それって労力を伴う割に、結果が出にくいことも多いです。
 
ダニングクルーガー効果な人の、良い部分をキチンを評価してあげた上で、「私は、あなたに○○をして欲しい」ということを、(言葉にするかどうかはケースバイケースですが)伝え、実行に導き、そして求める結果もきちんと獲得するというのが、処世術というものではないでしょうか。
 
冒頭のエピソードに戻りましょう。
自身の提案書を採用してくれなかった私に対し、チーフディレクターは怒りを隠しませんでした。
けれども私は、「まあ、結果を見てから考えましょうよ」と彼をいなし、真正面から向き合わなかったんですね。
 
結果、コンペには勝利し、案件を獲得することができました。
後日、祝勝会兼キックオフと称した飲み会で、私は彼のことをとことん持ち上げました。結果、彼の同僚や部下たちのとりなしもあって、彼は機嫌を直しました。
 
もし、コンペで負けたとしても、僕は「すべて僕の責任です」と言って、彼をとりなすつもりだったんですけどね。
 
ダニングクルーガー効果な困った人、すなわち実力に不相応なくらい、自己評価の高い人って、結局のところ、こういう距離を取った付き合い方しか、うまい方法がないのかもしれません。
 
 
 


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