秋元通信

注目される心理的安全性とは【アメとムチはどちらが効果的なのか?】

  • 2023.2.17


 
 
 
企業における優れたチームの条件とは、どんなものでしょうか?
 
例えば大企業であれば、製造、品質、総務、販売など、複数の部門に、無数の集団(チーム)が存在します。残念ながら、優秀なチームもあれば、芳しい成果を上げられないチームもあるでしょう。
これは大企業における組織単位やチームだけの話ではなく、企業そのものにおいても同じことがいえます。
 
成果を挙げられるチームと、そうではないチームの差はなんなのでしょうか?
 
Googleは、4年間かけてこの違いを解析することに取り組みました。
 
 
 

Googleが行った「プロジェクト・アリストテレス」とは?

 
古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスは、「全体は部分の総和に勝る」という言葉を残しています。
Googleのピープルアナリティクス・チームは、「従業員は単独で働くよりもチームで働いた方が大きな成果を上げられる」と仮定し、「効果的なチームを可能とする条件は何か?」という命題を見つけるプロジェクトに、先の名言を残したアリストテレスの名前を冠しました。
リサーチ対象のチームは、180。エンジニアリング系:115、営業:65の合計です。
ただし、ここでいうチームとは、組織図上のチームだけではなく、組織を横断して設けられたプロジェクト単位のチームも含まれています。
 
 
最初、Googleが分析を行ったのは以下です。
 

  • チームの構成
    メンバーの性格的な特性や営業スキル、年齢・性別などの人口統計学的な属性など
  •  

  • チームの力学
    チームメンバー同士の関係性など

 
 
このふたつを軸に、Googleはデータを収集し、得られた結果を統計学を用いて、「効果的なチームを可能とする”因子”は何か?」を突き止めようとしました。
その結果、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」が、「効果的なチームを可能とする条件」として「真に重要」(※Googleの表現です)であることを突き止めました。
 
どうでしょう?
この結果って、私たちの常識とは少し異なりませんか?
 
 
例えば、野球にせよ、サッカーにせよ、スポーツの世界で日本代表チーム(≒結果を出せるチーム)を創り上げる際には、まずメンバーのセレクトから始まります。
 
企業でも同様です。
社運を賭けた重要プロジェクトにおいて、精鋭メンバーを集結させることなどはよくあることです。
 
もっとも、Googleの導いた答えは、「真に重要なのは」とただし書きをつけているので、「誰がチームのメンバーであるか」の重要性を否定しているわけではありません。
 
 
 

効果的なチームを可能とする”因子”とは?

 

  • 心理的安全性 (後述します)
  •  

  • 相互信頼
    相互信頼の高いチームは高いクオリティの仕事を期限内に仕上げ、対して相互信頼性の低いチームはメンバーに責任を転嫁する。
  •  

  • 構造と明確さ
    効果的なチームをつくるためには、ミッションと、そのミッションを実現するためのプロセス、そして各メンバーの行動がもたらす成果について、メンバーそれぞれが理解していることが重要。
  •  

  • 仕事の意味
    効果的なチームは、仕事そのもの、あるいは成果に対して、目的意識を感じられることが必要。
  •  

  • インパクト
    メンバーが主観的に、「自分の仕事には意義がある」と感じられること。
    ざっくりとまとめると、「ミッションと、ミッションがもたらす成果についてプライドを持つことができる状況において、気持ちよく働くことが、チームの効果を最大化する」といったところでしょうか。

 
当たり前のことを言っているようですが、プロジェクト・アリストテレスが導き出した、「チームの効果性に、それほど影響をしていない因子」を診ると、私たちの常識とは異なる、「あれ??」と思うこともあります。
 
 

チームの効果性に、それほど影響をしていない因子

 

  • チームメンバーの働き場所(同じオフィスで近くに座り働くこと)
  • 合意に基づく意思決定
  • チームメンバーが外交的であること
  • チームメンバー個人のパフォーマンス
  • 仕事量
  • 先任順位
  • チームの規模
  • 在職期間

 
意外ではありませんか?
ただし、Googleも、これはGoogleにおける分析結果であって、どの組織にも共通する因子ではないと言っています。例えば、チームの規模については、「少人数のチームの方が結果を出しやすい」という研究結果が多数あることを、Googleは指摘しています。
 
 
 

心理的安全性と、「アメとムチ」

 
心理的安全性という言葉を生み出したのは、リーダーシップや組織学習を研究し、現在はハーバード・ビジネス・スクールで教授を務めているエイミー・エドモンドソン氏(米)です。
 
心理的安全性について、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」とエドモンドソン氏は定義しました。
 
心理的安全性が確保されたチームや組織、あるいは企業では、「こんな提案をしたら、周囲(上司や同僚、部下)から否定されるかも…」あるいは「自分自身の評価が下がるかも」といった不安に直面することなく、創造的で革新的なアイデアを発言し、あるいは行動に移すことができると考えられています。
 
メルマガ「秋元通信」では、2016年以来、「アメとムチは、どちらが効果的なのか?」という不定期連載を9本お届けしてきました。
この連載を執筆するにあたり、筆者はさまざまな文献を調べてきましたが、基本的に「ムチが人間育成に効果を発揮する」「組織運営において、ムチが効果的である」という研究結果はありませんでした。
心理的安全性が「アメ」に該当するのか?、という疑問はあります。そもそも、心理的安全性とは、健全な人間関係においては必要な要素であり、いわばスタンダードであるべきものです。それを「アメ」と称するのは、少なくとも筆者は違和感を感じます。
 
日本…というか、仏教、道教、あるいはキリスト教や、イスラム教などにおいても、「人がより高みにある悟りの境地に達するためには、苦難を乗り越えなければならない」という思想(修行主義?)が見受けられます。
この延長線なのか、「仕事は苦しくなければならないもの」という固定観念を持ち、例えば不安を与えるような高いプレッシャーを組織に与える経営者だったり、部下のアイデアに対しダメ出しを続けることが部下の成長につながると考えている人は一定数います。
 
 
現在、心理的安全性は、現代に求められる組織マネジメント論の中核を成す考え方のひとつとして注目されていますが。「注目される」ということは、心理的安全性という概念が、これまでは常識ではなく、逆にこれまでの常識だった修行主義が直感的に受け入れられていたということなのでしょう。
 
心理的安全性については、次号でより深掘りをして考えていきましょう。
 
 
 


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