秋元通信

自動運転は、渋滞解消に役立つのか?

  • 2023.6.29

突然ですが、東名自動車道の大和バス停付近って、なぜ、いつもあんなに渋滞するのでしょうね?
 
以前であれば、渋滞の発生ポイントと言えば、料金所付近でした。
しかし、ETCの普及に伴い、料金所を起因とする渋滞は減少傾向にあります。代わって渋滞発生の悪玉として知られるようになったのは、サグ部です。
 
英語における「サグ(sag)」とは、「たわみ、落ち込み」のことです。
渋滞発生の悪玉として使われるサグ部とは、緩やかな上り坂に差し掛かる部分や、下り坂から上り坂に変わる部分を指します。
 
こういった箇所では、ドライバーが無意識のうちに車速を落としてしまいます。すると後続のクルマもスピードを落とし…、を繰り返しているうちに、やがて渋滞のレベルまで車速が落ちてしまうというのが、サグ部で渋滞が発生する基本的な仕組みです。
 
同様に、無意識のうちにスピードを落としてしまうポイントとしてはトンネルがあります。トンネルに入り、周囲が暗くなると、つい、ドライバーはスピードを落とそうとしがちだからです。
日本坂トンネル(東名/静岡)や天王山トンネル(名神/京都府と大阪府の府境)が、渋滞ポイントになっていたのは、この理由によります。現在は、車線数を増やした結果、両トンネルとも渋滞はかなり減ったそうですが。
 
他にも、ジャンクションなどの合流部も、やはり同様の理由で渋滞が発生しやすいポイントとなっています。
   

渋滞解消効果を期待されるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)

 
最近のクルマにおいて、標準装備となりつつあるのが、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)のひとつである、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)です。
 
以前は、ACCというと「オート・クルーズ・コントロール」でした。
「オート・クルーズ・コントロール」は一定速度で走行を続けるだけですが、「アダプティブ・クルーズ・コントロール」では、各種のセンサーによって、アクセルとブレーキを操作し、前方にクルマがいる場合には、速度に応じた適切な車間距離を保つ走る追従走行を行います。
だから、「オート」ではなく「アダプティブ」(adaptive、「適応性のある」)なのです。
 
JAFのWebサイトでは、ACCについて、3つのメリットを挙げています。
 

  • 安全な車間距離を保つ
  • ドライバーの疲労を軽減する
  • 渋滞を緩和する

 
「安全な車間距離を保つ」と「ドライバーの疲労を軽減する」は、なんとなく、そして直感的に分かりやすいです。
 
本稿のテーマでもある、「渋滞を緩和する」について、深掘りしていきましょう。
   

渋滞発生防止に役立つ、渋滞吸収走行と0102運動

 
多くの渋滞における直接的な原因は、サグ部の存在であることは、既に申し上げました。
しかし、現実問題として「上り坂の存在しない道路」などは実現不可能です。
 
このような観点から考えると、多くの渋滞における原因は、サグ部ではなく、実は車間距離と言えます。
 
渋滞の主たる原因は、速度低下の連鎖が起こることによって、やがて渋滞レベルまで車群全体の速度が低下してしまうことにあると申し上げました。
ということは、速度低下の連鎖を断ち切れば、渋滞は起きない(あるいは「解消される」)ことになります。
 
もし、高速道路を走行するすべてのクルマが、前車の速度低下を吸収できるだけ車間距離を保っていれば、理論上、サグ部を起因とする渋滞は発生しないのです。
 
渋滞に対する防止効果として注目を集めているのが、渋滞吸収走行です。
その方法をご紹介しましょう。
 

  • カーナビや道路情報板(看板)、ラジオなどで前方での渋滞がわかっているときは、渋滞領域の数km手前から車間距離を広めにとり、サグ部の前半=下り坂では速度を抑えて走る(-10~20km/hぐらい)。
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  • 上り坂区間に入って、流れが悪くなってきても、広めにとった車間距離を活かし、前車が不用意にブレーキを踏んでも、自車はなるべくブレーキを踏まないようにして、流れの淀みを距離で吸収し、後続に渋滞を伝播させないようにする。
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  • 車間距離をとることで、他のクルマが車線を変えて前に入ってくることがあるが、入られても広い車間距離はキープする。
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  • 渋滞最後尾において、停止することなく走り続けられることを目指す。
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  • 常に2、3台前のクルマを見て、自分の前のクルマが動き出したら遅れずについていく(これが重要)。
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    (出典 犠牲心が必要! 改善効果が証明された「渋滞吸収走行」の中身と今後の課題 / WEB CARTOP)

  
この運転を実践するためには、心の鍛錬が必要そうですが…
 
そして、ここで言う車間距離を保つ方法が、0102運動(ゼロイチゼロニ運動)です。
本来、0102運動は、前車のアクシデントを回避するために必要な車間距離を把握するための方法です。
 
教習所で、「80km/h走行時に必要な車間距離は80m」と教わったことを覚えている人もいるかもしれません。しかし、実際には目視で正確に80mを把握できる人は限られているでしょうし、そもそも100km/h、あるいは120km/hで走行していたらアテになりません。
 
そこで考え出されたのが、0102運動です。
高速道路走行中、目印になるもの(標識や、SA・PA、あるいはジャンクションの出入り口など)を前車が通過してから、自車が目印を通過するまでに2秒以上の車間距離をキープしていれば、安全だというのが0102運動の基本です。
 
ただし、正確に2秒を数えるのは難しいです。
そこで、「ゼロイチ、ゼロニ」と数えると、多くの人が2秒を比較的正しくカウントできることから、0102運動が編み出されました。
 
理論上は、0102運動で適切な車間距離を保ち、かつ渋滞吸収走行を実践すれば、渋滞の発生は抑えられるはずです。
  
しかし、どうですか?、皆さま。
なかなか、人力でこれらを行うのは難しそうです。
 
だからACCが注目されるのです。
   

「適切な」ACC搭載車が、10%いれば、東名大和バス停付近の渋滞は7割解消する

 

研究では、シミュレーションの結果、「適切な」ACC性能を備えたクルマが増えれば、大和バス停付近の渋滞は、大幅に発生を抑制できると試算しています。

研究では、シミュレーションの結果、「適切な」ACC性能を備えたクルマが増えれば、大和バス停付近の渋滞は、大幅に発生を抑制できると試算しています。


ある研究では、「適切な」ACCを搭載したクルマが増えれば、渋滞の削減効果が上がると試算しています。
 
 
この研究では、実際に大和バス停付近で発生した渋滞の様子をもとにシミュレーションを行った結果、ACC搭載車が10%いるだけで5割~7割以上、30%いれば9割以上の渋滞が発生しなかったと試算しています。
 
ただし、この研究では、このようにも指摘しています。
 

「これらACCを活用した渋滞対策サービスの実現には、ACCの有する速度に応じて適切な車間を維持する特性がドライバよりも優れていることが前提であるが、高速域での乗り心地を重視した設計となっている現行のACCの性能(以下、現行性能)では、必ずしも十分な渋滞緩和効果は認められないことが既往研究において報告されている。
 
したがって、ACCを活用した渋滞対策サービスの実現に向けては、交通円滑化の観点からも新たにACCの性能(以下、将来性能)を検討することが必要である」

 
念のため申し上げると、この論文は2015年に発表されたものです。
最新のACCが、「十分な渋滞緩和効果性能」をクリアしているかどうかは、分かりません。
 
筆者は、日頃からカーシェアを利用し、自動車メーカー各社のACCを乗り比べていますが、「加速は良いが、やたらとブレーキをかけたがるACC」や、「車間距離を柔軟にコントロールし、ブレーキをかけないような車速維持を行うものの、加速が弱いACC」など、自動車メーカーによってACCのセッティングが異なることを体感しています。
 
たぶん、現行のACCでは、まだ性能的に十分ではないことは確かだと考えます。
 
 
 
まとめましょう。
まず、人の運転では、渋滞抑制に必要な、「適切な車間距離を保つ渋滞吸収走行を行うこと」が難しいことは確実でしょう。ドライビングスキルの高い人の中には、できる人もいるでしょう。しかし高速道路を走行するすべての人に対し、「渋滞吸収走行スキルを身につけてください」というのは、無理があります。
 
だからこそ、自動運転車に、あらかじめ渋滞吸収走行をプログラミングしておけば、渋滞抑制効果が期待できます。できますが、今度は、「では完全な渋滞吸収走行の定義とは?」という課題に直面します。
 
現在、この「完全な渋滞吸収走行の定義」(※数値化され、プログラムで定義できるレベルまで突き詰められた研究結果)があるのかどうかは不明ですけどね。
 
 
自動運転は、「ただ走れば良い」というものではありません。
「人間と同じレベルの車両コントロールができること」は当たり前であり、それ以上の技量を求められています。以前お届けした「トロッコ問題」などは、人では判断がつかない安全装置を求められている一例です。
 
とは言え、一方で自動運転の社会実装が近づいているのも事実です。
今後の動向を見守りましょう。
 
 
 

参考文献

 

 
 
 


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