秋元通信

ナップサック問題と複合積載率、「配車」業務で注目高まる積付けの効率化

  • 2023.8.31


 
 
最近はあまり見かけなくなりましたけど。筆者が暮らしていた茨城県県南部では、常磐線に乗り込む行商のおばさんを、かつてよく見かけたものです。
 
あのおばさんたち、ちょっと信じがたいような量と(おそらく)重さの野菜などを、背負子に積み上げて電車に乗り込んできました。
とは言え、ひとりの女性が背負うことができる商品の量には限りがあります。重量もそうですが、大きすぎる(体積が大きい)貨物は、背負子に載せられないですからね。
 
そう考えると、「限られた背負子に、もっとも売上が上がる商品の組み合わせとは何か?」を考えることって、行商のおばさんたちにはとても大切なことだったはずです。
 
これを算出する数学上の課題を、ナップサック問題と呼びます。
 
 
 

ナップサック問題とは

 

「ナップサック問題(ナップサックもんだい、Knapsack problem)は、計算複雑性理論における計算の難しさの議論の対象となる問題の一つで、n 種類の品物(各々、価値 vi、重量 wi)が与えられたとき、重量の合計が W を超えない範囲で品物のいくつかをナップサックに入れて、その入れた品物の価値の合計を最大化するには入れる品物の組み合わせをどのように選べばよいか」という整数計画問題である」

(出典:Wikipedia
 
計算複雑性理論とは、ごくかんたんに言えば、「ものすごく計算が大変な数学の問題」を指します。
以前ご紹介した、巡回サラリーマン問題も、この計算複雑性理論のひとつです。
 

 
ご承知のとおり、現在、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスが話題となっています。
そして、物流クライシス解消のためにも、今、ナップサック問題が注目されつつあります。
 
理由は、共同配送です。
 
 
 

複合積載率というKPI

 
共同配送は、物流クライシス解消の手段として、注目を集めています。
 
共同輸送では、複数の荷主の荷物を同じトラックで輸送します。
共同輸送最大のメリットであり目的は、輸送リソースの共有による、輸送コスト削減効果です。この文脈において、複合積載率というKPIが注目されつつあります。
 
一般的に積載率と言えば、重量積載率を指します。
これは、輸送した貨物の重量を、トラックの最大積載量で割った値です。
 
対して、容積積載率では、輸送した貨物の体積を、トラック荷室の容積で割ります。
 
複合積載率は、重量積載率と容積積載率を乗じた値になります。
よって、例えば、金属や液体など、重量勝ちする荷物を輸送した場合、重量積載率は90%でも、荷室がスカスカで、容積積載率が50%の場合、複合積載率は45%になってしまいます。
 
 
余談です。
 
国土交通省を始めとする政府資料では、積載率ではなく、積載”効”率というKPIを使います。
積載効率は、「輸送貨物の輸送トンキロ÷トラックの能力トンキロ」で表現されます。積載率の場合、例えば往路は満載でも、復路が空荷だった場合、厳密な計算ができないのですが、積載効率はこういったケースでも正確な算出が可能です。
 
将来的には、複合積載率も、トンキロベース、立方キロベース)で算出されるようになるのでしょうね。
 
 
ご承知のとおり、1990年代には6割近くあった積載率は、現在では4割以下に下がっています。
このことから考えると、重量積載率で6割、あるいは8割をマークすれば、輸送効率の大幅な改善となるのですが。
 
一部の共同配送事業者では、より高い生産性を求めるために、複合積載率という新たなKPIを用い始めているわけです。
 
 
 

複合積載率が配車業務に与える影響

 
配車業務の三要素は、「ルート」「積付け(割り付け)」「コンプライアンス」です。
 
これらの三要素は、荷物の種類や輸送形態によって、その重要度が大きく変わってきます。
 
例えば、コンビニエンスストアへのような店舗配送で、ルートが固定の場合、ルートの変更や見直しは頻繁に行われないため、トラックドライバーの勤務スケジュールをコンプライアンス(改善基準告示や労働基準法)に遵守させる管理が、より重要になります。
 
一般的には、スポット配送の要素が高くなればなるほど、「ルート」や「積付け」の要素が高まっていきます。
 
しかし、共同配送を行い、高い複合積載率を実現した上で、総合的・統合的に高い精度の配車結果を得ようとすると…、これは人の手には余ってきます。
複合積載率まで考えられないでしょう、きっと。
 
「いや、例えば路線便事業者では、高い積載率を実現しているはず」──ごもっともです。
 
路線便事業者に限らず、高い積載率を実現しているケースでは、手積みで積めるだけ荷物を積んだ結果が多いのではないでしょうか。つまり、高い積載率は結果であって、計画的に高精度の積付け・割り付けを実現したわけではないケースが大半だと考えられます。
 
そして、路線便のばあいは、ルートが決まっています。
これは、多くの共同配送でも同様です。
 
スポット混載をメインとしている運送会社の配車マンの中には、脳内計算でルートと積付けを、信じがたい高度なレベルで実現している人もいますが。こんな人は例外中の例外でしょう。
 
 
 

「ルート」と「積付け」を高度に演算できるソリューションの必要性

 
今後共同配送を行う(それも二社三社の取り組みではなく、数十社の取り組みなど)現場が増えていけば、配車業務における積付けの要素は、より重要になっていきます。
 
ただし筆者の知る限り、「ルート」と「積付け」を高レベルで算出できるソリューションは、まだありません。積付けシステムと、配車システムを別で回している(演算させている)物流企業や荷主企業はありますが。
 
理由はかんたんです。
積付けとルートを同時に演算するのは、コンピューターといえども難しすぎるからです。
 
「算出するのは可能なんですよ。ただし、計算に何時間も掛かってしまうので、実用に耐えないというのが現実です」──ある物流システム開発会社は、このように語っていました。
 
現在、私たちが日常的に利用しているコンピューターやサーバよりも、はるかに高い演算能力を持つ量子コンピューターでも使わないと、積付けとルートを最適化する次世代配車システムの実現は難しいと、筆者は考えています。
 
政府が、「物流革新に向けた政策パッケージ」において、パレチゼーションのさらなる普及と、パレットサイズの標準化(基本は、1.1m×1.1mのパレット)を推し進めようというのは、このあたりの事情もあるのかもしれません。
荷姿を統一してしまえば、積付け(≒ナップサック問題)ははるかに容易になりますから。
 
 
「複合積載率」──共同配送と、そして物流クライシス対策を突き詰めていけば、必ずこの新たなKPIが必要となります。
ただ、高い複合積載率を実現するための現実的な方法が、まだ乏しいことも現実です。
 
今後の動向に注目しましょう。
 
 
 


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