秋元通信

「ナラティブ・ベイスト・メディスン」、 患者のストーリーから診る医療と、営業の共通点

  • 2023.10.24
  1. 「夫が他界した直後、妻も他界した」
  2. 「夫が他界した直後、悲しみのあまり妻も他界した」

 
このふたつの言葉は、どちらも同じ事実を語っています。
1.には、2.で言及された「悲しみのあまり」という部分が省略されています。
 
医者の立場から考えると、どちらの表現が正しいのでしょうか?
この疑問から生まれた概念が、ナラティブ・ベイスト・メディスンです。
 
 
 

ナラティブ・ベイスト・メディスンとは

 

「ナラティブ・ベイスト・メディスン(Narrative Based Medicine)とは、ナラティブに基づいた医療(物語りと対話に基づく医療)のことである。
 
患者が語る『病気になった理由』、『経緯』、『症状』、『病気についてどのように考えているか』といった物語から、患者が抱える問題を全人的に(身体面だけでなく、精神や心理状態、社会的立場などを含むあらゆる要素から)把握し、治療方法を考える医療のこと。患者と医療従事者が対話を通じて良い関係性を作り、双方が満足の行く治療を行うことを目的としている。
 
NBMの考え方は、従来の医療が科学的根拠(エビデンス)に基づく診断・治療(EBM)を重視してきた結果、科学的根拠に基づいた医療を行っても、患者の満足度が上がらず、医療従事者もやりがいや達成感を感じづらかったというジレンマから起こった考え方である」
 
出典:看護roo!

 
 
母が他界し、葬儀を終えた後、筆者は3日ほど寝込みました。
葬儀等の手続きに追われ、十分な睡眠を取れなかったことから風邪を悪化させたのです。
 
私が近所の開業医に通院した際、私は一言、「母の葬儀を終えたばかりで、ちょっと疲れが出たのかも」とお医者さんに言ったのですが。
そこから、そのお医者さんは、母の病状、最近の私の生活などをヒアリングしてくださり、風邪薬とは別にビタミン剤と睡眠導入剤を処方してくださいました。
 
あれはありがたかったですね…
 
「医者が診るべき対象は何か?」──これはとても重要な課題です。
目に見える症状だけを元に診察するのではなく、病気になった原因を、患者の生活、心理状態などのストーリーから把握し、本当に必要な医療を提供すること。
 
ナラティブ・ベイスト・メディスンという考え方には、旧来の医療に対する反省と、本当の治療を目指したいという医療関係者の想いがつまっているのでしょう。
 
 
 

Webサイト制作の依頼を断った制作会社社長

 
筆者がWebサイト制作会社に勤めていたときのエピソードです。
 
銀行から、あるクライアントを紹介されました。
 
「新しいホテルを開業するので、Webサイトを作ってほしい」という依頼だったのですが、結論から申し上げると、筆者の在籍していたWebサイト制作会社社長(以下、マイ・ボス)は、この依頼を断りました。
 
なぜだと思いますか?
 
マイ・ボスは、「あなたの目指すホテルにとって、Webサイトを開設するのは必ずしも適切ではない」と断言したのです。
 
クライアント、すなわちホテルの経営者(以下、A氏)は、既にホテルを経営していました。
最低宿泊料金一泊ウン十万円の高級ホテルでありながら、予約は1年半先まですべて埋まっているという人気ホテルです。「1年半先」というのは、それ以上先の予約は受け付けていないからです。
 
A氏は培ったノウハウを活かし、新たな高級ホテルを計画しました。
その新たな高級ホテルのWebサイト制作を考えていたのです。
 
ちなみにこのエピソードは、今から20年近く前のこと。
今とは違い、世にあるほぼすべて企業、店舗、あるいはホテルが、自社Webサイトを備えていたわけではありません。
 
A氏は、「これからのホテルは、Webサイトくらいなければダメだろう」と考え、相談してきたのですが…
 
マイ・ボスの説明は以下でした。
 

  • 残念ながら、今(※20年前)の技術では、高級感を演出するWebサイトは作れない。
  • そもそも、高級ホテルというブランディングを考えたとき、「誰もが手の届く場所(=Webサイト)に情報をさらす」という考え方は、必ずしも正しくないのでは?

 
その上で、マイ・ボスは別の方法を提案したのですが…、これはナイショにしておきましょう。
 
 
 

「◯◯をしてください」という依頼の落とし穴

 
筆者はライターですから、筆者のもとには「ウチで記事を書いてください」という依頼が来ます。
特に、(メディアからの依頼ではなく)企業から、「ウチのオウンドメディアで記事を書いてほしい」という依頼を頂いた場合には、筆者は必ずその理由を尋ねます。
 
理由は明確です。
「オウンドメディアで記事を用意することが正解ではないケース」が往々にしてあるからです。
 
「オウンドメディアで記事を書く」ということは、ほぼ100%、SEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)を期待しています。
 
しかし、例えば「提供しているサービスや製品における、概念・コンセプトが、そもそも世に知られていない」というケースであれば、GoogleやYahoo!でキーワード検索されることそのものが稀でしょう。
 
「これは世間の人々が気がついていないような社会課題を解決できる製品(あるいはサービス)だから、ぜひオウンドメディアに記事を用意して、SEOで一位を取っておこう!」
 
一見マーケティング的には正解のような気がしますが、「世間の人々が気がついていないような社会課題」であれば、まず世間の人々に、その社会課題を知らしめるほうが先です。
 
だとすれば、行うべきは、オウンドメディアに対する記事の作成ではなく、露出力の高いメディアへの広告記事の出稿かもしれません。
だから筆者は「私に記事の執筆を依頼するのではなく、◯◯というメディアに広告記事を出したほうが良いですよ」とアドバイスするわけです。
 
 
 

営業活動にも必要なナラティブ・ベイスト・メディスン

 
ナラティブ・ベイスト・メディスンは、営業にも必要な考え方でしょう。
クライアントの事情や、それまでの経緯を理解しようとせずに、何かを売り込もうとしても、なかなか成約には至らないはずです。
もし、「クライアントの事情や、それまでの経緯を理解しない」ままに売り込みが成立するとすれば、それは価格勝負──端的に言えば、「安売り」──しているだけかもしれません。
 
そういう点では、ナラティブ・ベイスト・メディスンではなく、ナラティブ・ベイスト・セールスと言い換えるべきかもしませんね。
 
 
マイ・ボスのエピソードに話を戻しましょう。
 
クライアントからの依頼に対し、疑義をはさむというのは勇気のいることです。
特に営業の立場からすれば、獲得できたかもしれない契約を、余計なことを言って取り逃すかもしれないわけですから。
 
このエピソードに関しても、マイ・ボスの代替提案は却下され、A氏から仕事を頂くことはありませんでした。
ただ、筆者も、マイ・ボスの判断は適切だったと考えています。猫も杓子も、そして高級ホテルも、すべからくWebサイトを保有している今だったら、話は別ですけど。
 
営業の正解は、「クライアントの要望を叶える」ということばかりではありません。
端的に言えば、ナラティブ・ベイスト・メディスンの精神を実践できる営業とは、「筋が通った営業」ということになるのでしょうね。


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