秋元通信

心理的安全性がチームにもたらすもの、【アメとムチはどちらが効果的なのか?】

  • 2023.2.28

前号では、「プロジェクト・アリストテレス」(Google)の研究成果を紹介し、現代に求められる組織マネジメント論の中核を成す考え方である心理的安全性について、解説しました。
本稿ではさらに深掘りしていきましょう。
 
 
 

心理的安全性、3つのポイント

 
心理的安全性とは、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」を言います。
 
心理的安全性が確保されたチームや組織、あるいは企業では、「こんな提案をしたら、周囲(上司や同僚、部下)から否定されるかも…」あるいは「自分自身の評価が下がるかも」といった不安に直面することなく、創造的で革新的なアイデアを発言し、あるいは行動に移すことができると考えられています。
心理的安全性について、同時に理解しておくべき3つのポイントがあります。
 
1つ目は、心理的安全性とは、あくまで組織を対象とした考え方であって、個人の人格特性や、対人的信頼を意味するものではないということ。
 
2つ目は、心理的安全性は、組織メンバーの潜在意識に深く浸透し、無意識のうちにメンバーの行動や判断に影響を与えるものであるということ。
 
3つ目は、心理的安全性とは、いわゆる「居心地の良い組織」を意味するものではないということ。心理的安全性という言葉を生み出したエイミー・エドモンドソン氏は、「心理的安全性とは、ひとりのメンバーが経験して得た知識や理解を、全員で学習し共有して、高いパフォーマンスにつなげることを可能にする集団状況である」と指摘しています。
 
心理的安全性が保たれた組織は、居心地の良い組織となるケースが多いでしょう。しかし、それは結果論であって必須ではないのです。
 
 
 

心理的安全性を構築する方法

 
エドモンドソン氏は、「チーミング」(teaming)という方法で、心理的安全性を構築する方法を示しています。
 

  1. 組織メンバー全員で学習するための枠組みをつくること(フレーミング)。
  2. 心理的に安全な場を作ること。
  3. 失敗から学ぶこと。
  4. 職業的、文化的な境界をつなぐこと。

 
心理的安全性とは、高いパフォーマンスを発揮できる組織を創り上げるためのものであり、その方法論としてチーミングがあり、チーミングにおける必須条件として心理的安全性があるという関係性になります。
 
「3人寄れば文殊の知恵」という言葉がありますよ。この考え方の前提には「ひとりの人が得られる知識や知恵には限界がある」という認識があります。そのため、Aさんの知識や知恵を、Bさん、Cさん、Dさん…と組織内の全員で相互学習する環境を設けることがまず大切なわけです。
 
ところが、Aさんが「私は◯◯と思うんだけど、これを言うと馬鹿にされるかも…」といった恐れを抱き、自身の知識・知恵を披露することを躊躇したらどうでしょうか。
あるいは、「私は、??という失敗をしたけど、これを言うのは恥ずかしいな」と発言を控えたらいかがでしょう。
 
いずれも、組織は学習する機会を失うことになります。
だからこそ、心理的安全性が必要なわけです。
 
 
 

心理的安全性は、「アメ」なのか?

 
さて、この不定期連載は、「アメとムチはどちらが効果的なのか?」をテーマにしています。
そこで考えたいのは、「心理的安全性というのは、『アメ』に該当するのか?」ということです。
 
心理的安全性が保たれていない組織において、発言を否定されることは、痛みを伴います。「◯◯部長、その見解は間違っています」と発言したところ、降格されたり、あるいは左遷されるようなことがあれば、それは痛み、すなわち「ムチ」にあたるでしょう。
 
しかし、心理的安全性が担保された組織においても、自身の発言を否定されれば、やはり痛みは伴うでしょう。降格や左遷のリスクはないでしょうが、「否定された」という痛みは、ときにひどく人を傷つけるものです。
 
心理的安全性が保たれた組織とは、与えられたミッションに向かって力強く邁進できる組織です。メンバーの意見や考え方が間違っているのであれば、それを否定することもミッション遂行のためには必要です。
大切なのは、否定されたとしても、その痛みをメンバー同士で共有し、乗り越えていく勇気を持てるということです。
 
心理的安全性という概念は美しいですが、実践にはさまざまな課題があります。
そもそも土台としてお互いの人間関係が良好であることも必要です。また認知限界や限定合理性の壁──すなわち、知識や立場、あるいは寄って立つ文化の違いなどが相互理解を阻み、結果として心理的安全性を構築する上での支障となることもあります。
 
企業における相互理解の課題については、次号で考えましょう。
 
 
 

出典および参考

 

 
 
 


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