以前、「2025年の崖」問題とDXについて取り上げました。
「IT化の遅れが、致命的な経営リスクに!? 『2025年の崖』問題とは」
詳しい説明は、先の記事を読んでください。
誤解を恐れず、ざっくりと言ってしまえば。
「IT化に取り残された企業(国)は、もう生き残っていけないから。IT化(デジタル化)に必死に取り組まないとダメですよ、皆さん!!」
こういうことですね。
企業内でIT化を推進しようとすれば、必ず必要なのが、ITに長けた人材、すなわち「デジタル人材」です。
では、IT企業ではなく、私ども物流企業をはじめとする一般企業に求められるデジタル人材とは、どんな人材なのでしょうか。
前後編に分けて、考えていきましょう。
ある企業では、大手システム開発会社において課長を務めていた人材をヘッドハンティングしました。目的は、社内のIT化を推進するためです。
入社後すぐ、その人は在庫管理システムと出荷管理システムを整備、RPAを導入して、社内業務の大幅な生産性向上を実現しました。
ところが。
ヘッドハンティングから2~3年が経過した今、その人の日常業務は、RPAロボットを制作することと、RPAやら社内システムやらのメンテナンスです。
社内には、まだまだIT化を推進しなければならない業務があるのですが、目先のメンテナンス業務などの雑務に追われ、社内のIT化推進はほったらかしになっています。
この人が社内に招かれた時、求められた業務であり、スキルは、IT化を推進するためのコンサルティングであり、プロジェクトマネージメントでした。
しかし、今行っているのは、プログラミングであり、保守メンテナンスです。
この企業では、せっかく高スキルな人材を採用したのに、現在は作業者として消耗してしまっています。
なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか。
私は、コンサルティングのお仕事を頂いていた企業で、ちょうど事務所のレイアウト変更に遭遇した時がありました。流れで(というか、嫌いではないので)、私も手伝っていたのですが。
「あなたは時給が高いんですから、こんな手伝いしないでください」
部長さんにそう言われたことがありました。
まあ、そうですよね(笑
でも、その時のレイアウト変更には、役員はもちろん、社長まで参加していました。
間違いなく、時給で言えば、私よりも高いはずです。
このエピソードによらず、例えば物流企業では、忙しい時には役員クラスの人が倉庫作業を手伝ったり、自らトラックのハンドルを握ることが見受けられます。
外部の人はNGで、中の人(社員)はOKってどういうことでしょう?
ポイントは、キャッシュアウトでしょうね。
私の例はともかくとして。
キャッシュアウトは、確かに控えるべきです。財務会計の観点から見れば、それはなおさらのことです。
しかし、キャッシュアウトを控えることと、コストの高い人材を、生産性のあわない業務、例えば作業的な業務に従事させることは、別問題です。
先のエピソードで言えば、せっかく高コストで招いた人材を、RPA内制などに使うのはもったいないです。内制をする人材が社内にいない、というのであれば、RPA制作を外注化し、件の人は、社内のIT化推進に特化させるべきです。
その方が、中長期的な視野で診ても、会社の成長には貢献するはずですから。
「キャッシュアウトは悪」という価値観に、盲目的に踊らされてはなりません。
特に、デジタル人材を活用する上では、適切に外部リソースを利用することが、必要になってきます。
「デジタル人材=プログラミングができる人」と思っていませんか?
間違いとは言いませんが、「プログラミング “も” できる人」ならばともかく、プログラミングだけしかできない人は、一般企業には不要だと、私は思います。
ExcelVBA、Access、KintoneやDominoなど、ちょっとしたプログラミングをこなすことができる社員を求める企業は、昔からありました。
特に最近、RPAでは、「かんたん」とか「内制できる」といったことが喧伝されていることから、「RPAを導入するんだったら、RPAを内制できる社内人材も育成しないと!」といった声はよく聞こえてきます。
別媒体ではありますが、先日、私はこのような記事を執筆しました。
「『RPA+BPO』は、RPA普及の鍵となるのか?」
記事中で、「RPA適正の持ち主は、4割しかいない!?」と書いています。
これは、RPA制作のスキルを身につける、SE養成プロジェクトを運用した結果をして得られた経験値です。
これは、企業におけるデジタル人材の素養を考える上で、とても教訓となる結果です。
プログラマーって、勉強すれば、誰でもなることができると思っていませんか?
システム開発会社で働くプログラマーであれば、確かにそうでしょう。
しかし、一般企業で働く…となると、難しいでしょう。
これ、一般的に誤解されがちなことで、要注意ポイントです。
端的に言えば、システム開発会社などで求められる専業的なプログラマーと、一般企業で求められるプログラマー的人材は異なるからです。
システム開発会社などで求められるプログラマーには、高い専門性と、高いスキルが求められます。しかし、逆に言うとそれ以外のスキルは求められません。それは、分業化が進んでいるからです。
クライアントと対面、要件定義などを行うPMは、同時にプログラマーたちの仕事ぶりを管理するプロジェクトマネージメントを行います。例えば、大手企業では、テストだけを行うSE、要件定義書などのドキュメンテーションに特化したSEなども存在します。
そういった環境では、プログラマーは、自らのスキルを強化することに特化するので、視野が狭くなりがちです。
対して、一般企業内におけるIT関係のタスクは、シチュエーションもバリエーションもさまざまです。
例えば、営業日報の集計のために、基幹システムから取り出した売上データをExcelVBAで加工したい。
例えば、宣伝とブランディングのために、Webサイトを充実させたいので、ブログアプリケーションを利用したい。
例えば、請求書の発行を自動化するための、RPAを内制したい。
一般企業内で求められるITスキルは、システム開発会社でプログラマーに求められるものとは逆で、スキルは浅くとも、幅広いプログラミング能力、システムやアプリケーションに対する対応力が求められます。
また、コンサルタントに近い課題解決能力も必要です。
一般企業では、システム開発会社におけるプログラマーのように、プログラミング仕様を手とり足とり教えてくれる人はいません。
現場の要望をヒアリングし、そのために最適な解を、自ら見つけることができる人材こそが、一般企業では必要です。
先の例、「RPA適正の持ち主は、4割しかいない!?」では、企業に人材派遣の形で出向き、RPA制作を行う人材を育成していました。RPAのプログラミングができればOK、というものではなく、課題解決能力なども含めて、育成していたわけです。
その結果が、「RPA適正の持ち主は、4割しかいない!?」です。
繰り返しますが、私は、一般企業では、プログラミングができる「だけ」の人材は無用だと考えています。
一般企業で求められるデジタル人材を確保することは、システム開発会社におけるプログラマー確保よりも、ある意味難易度が高く、慎重になるべきなのです。
では、一般企業は「デジタル人材」と、どう向き合うべきなのでしょうか。
後編で考えていきましょう。