秋元通信

仲良しチームが必ずしも優秀な組織になり得ない理由

  • 2023.3.16

あるメーカー(以下、A社とします)は、社員同士がとても仲良しでした。
プライベートでも社員同士で過ごすことが多いのだとか。社内では、野球や登山、あるいはサイクリングなど、複数の趣味サークルがあり、活動が盛んなことも影響しているそうです。
 
「とは言え、公私関係なく、常に同じメンバーで顔を突き合わせているような状況は、会社にとっても、当人たちにとっても、必ずしもプラスなことばかりではないと思うんですよ」──こう考えた中堅社員がいました。彼(以下、B氏とします)は中途入社者であり、他の会社を知っているがゆえに、A社の現状に憂いを感じたのでしょう。
 
そこで、B氏自身が参加している趣味のイベントに、同僚や後輩を誘い出しました。
社内サークルだけではなく、社外の人も多数参加するイベントに誘い出せば、自ずと社外の人との交流も増えると考えたのです。
 
B氏の目論見は失敗しました。
イベントにおいても、同僚・後輩たちは、社内の仲間同士で集まり、ほとんど他の人たちと交流を持とうとはしません。同僚・後輩らに話しかける一般参加者もいましたが、仲間内だけで楽しみ、盛り上がっている同僚・後輩らに気圧されてしまいます。
 
「最初はこんなもんかな…」、とめげずにB氏は、同僚・後輩らを別のイベントにも誘いますが、結果は同じでした。
 
「社内の人間って、どうしても考え方が似てくるじゃないですか。視野を広げる意味でも、社内だけじゃなく、社外の人たちとも友だちを増やしてほしかったのですが…」とB氏は嘆きます。
 
 
 

仲良しはプライベートだけ?

 
筆者は、B氏の紹介により、A社の仕事をしたことがありました。
あらかじめB氏からA社の社内状況は聞いていましたので、仕事もさぞかし進めやすいものと期待していたのですが、実際は真逆でした。
 
まず、組織間でミッションの共有ができていません。そのため、営業部のリクエストを、製造部が否定することが何度も発生しました。かと言って、部署内で意思統一ができているわけでもなく。営業部のいち社員が示した方向性を、営業部長が全否定することもありました。
 
「あの…、CさんとDさんって、仲良しじゃないんですか?」、私はB氏に尋ねました。というのも、Facebookで拝見する限り、C氏、D氏は、プライベートでも常に行動を共にしている様子だったからです。
 
「仲良しですよ。だけど、仕事上ではまったく合わない…」とB氏は言います。
 
「と言うか、あれだけ四六時中一緒にいて、仕事の話とかしないんですか?」と尋ねた私に、B氏は苦々しげにこのように言いました。
 
「そうなんです。それがうち(A社)の良くないところというか。仕事とプライベートを切り分けることの価値を勘違いしているんですよ」
 
 
 

「仲良し」は仕事に寄与するのか?

 
A社のケースは極端です。
ただ、従業員同士のコミュニケーション濃度が仕事の成果につながることを期待して、そのような場を提供している企業はあります。
 

  • 社員同士の飲み会・食事会に補助金制度を設けている企業
  • 社員旅行、社内運動会などを実施している企業
  • 社内での趣味サークル活動をサポートしている企業

 
これらって、実際のところ役に立つんでしょうか?
 
前々回のメルマガ「秋元通信」において、Googleが行った「プロジェクト・アリストテレス」についてご紹介しました。
「プロジェクト・アリストテレス」は、「効果的な」、すなわち成果を出すことができるチームの特徴を洗い出すために実施されました。結果、「プロジェクト・アリストテレス」はこのように結論付けています。
 

「真に重要なのは『誰がチームのメンバーであるか』よりも『チームがどのように協力しているか』であること」

 
加えて、チームの効果性にそれほど影響していない要素として、「プロジェクト・アリストテレス」は以下を挙げています。
 

  1. チームメンバーの働き場所(同じオフィスで近くに座り働くこと)
  2. 合意に基づく意思決定
  3. チームメンバーが外交的であること
  4. チームメンバー個人のパフォーマンス
  5. 仕事量
  6. 先任順位
  7. チームの規模
  8. 在職期間

 
「仲良し」、あるいは「コミュニケーション」を軸にこれらを眺めてみると、1.、あるいは2.とか3.って、少し意外ではないですか?
 
同じ場所で働いている方が、コミュニケーションも取りやすく、親密度も上がるように思いますし。
「合意に基づく意思決定」を行う上では、仲が悪いよりも良いほうが合意形成がしやすいように感じます。でも、そもそも合意形成が必ずしも必要ないと、「プロジェクト・アリストテレス」は言っているわけです。
「チームメンバーが外交的であること」については、外交的なメンバーが集まったほうが、コミュニケーションも活発化し、チームの親密度も上がるように思います。
 
そもそも、「真に重要なのは『誰がチームのメンバーであるか』よりも『チームがどのように協力しているか』であること」という「プロジェクト・アリストテレス」の結論は、チームメンバー同士の相性を考慮し、チームを構成する必要性を否定しています。
 
どうやら、仲良しであることは必ずしもチームの成果、仕事の成果には寄与しないようです。
 
 
 

「仲良し」なだけではダメな理由

 
おそらく読者の皆さまも、職場内で「あの人、苦手なんだなぁ」と思う人がひとりふたりいるのではないでしょうか。
その経験から考えると、「仲が悪い」よりは、「仲良し」の方が、仕事が進めやすいことは確かです。
 
相性の合わない人と仕事をするのがやりにくいのは、コミュニケーションに支障が生じるからです。相性の良い人、すなわち仲良しな人と仕事を行う場合には、コミュニケーションの問題はクリアできます。ただし、個人、あるいはチームとして与えられたミッションを遂行するために必要なのは、コミュニケーション能力だけではありません。
 
「プロジェクト・アリストテレス」では、チームの効果性に影響する因子のひとつとして、「構造と明確さ」を挙げています。引用しましょう。
 

「構造と明確さ:
効果的なチームをつくるには、職務上で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、そしてメンバーの行動がもたらす成果について、個々のメンバーが理解していることが重要となります。目標は、個人レベルで設定することもグループレベルで設定することもできますが、具体的で取り組みがいがあり、なおかつ達成可能な内容でなければなりません。Google では、短期的な目標と長期的な目標を設定してメンバーに周知するために、「目標と成果指標(OKR)」という手法が広く使われています」

 
OKRについては、過去に秋元通信でも取り上げています。
 
Googleやメルカリが活用!目標管理手法「OKR」とはなんぞや
 
チームに与えられたミッションとその遂行プロセス、各人の果たすべき役割などは、仕事を遂行する上での背骨(あるいはフレームワーク)のような役割を果たします。それぞれ相互に連結、作用することで、成果へとつながるわけです。
チームメンバー(あるいは社員全体)が仲良しであることも大切なことなのでしょうが、この「背骨」がきちんと構築されていない状態で、仲良しチームだけを作り上げても、結果は出ません。
 
先のA社のエピソードに戻りましょう。
私が、A社社員の皆さまの仕事に対する意識において、「これはまずい」と思ったことがありました。それは、ある製品について、開発した理由を尋ねたときのことです。
 
「社長が作れといったから」
 
平社員から部長、執行役員まで、声を揃えて、このように言ったのです。好意的に解釈すれば正直なのかもしれませんが、これは良くないですね。
 
A社にも、企業ビジョンはあります。また製品を開発する上で、マーケティングを行い、製品を生み出す社会的な意義も熟考しているはずです。社会的な意義に企業ビジョンをかけ合わせ、製品を世に送り出す理由を考えるのが、世間の常識的な考え方のはずなのに、A社の社員たちは、このような世知すらも身に付けていなかったのです。
 
繰り返しますが、A社は極端な例です。
また、社員同士が仲良しになることを否定するつもりもありません。ただ、その前にやるべきことは間違いなくあります。
 
その順序を間違えると、A社のようにちぐはぐなことになってしまうのでしょう。
 
 
なお、念のために申し上げると、筆者は社内運動会や社員旅行などを否定するつもりはありません。さらに言うと、例えば当社の若手社員、あるいはインターンシップに参加してくれた高校生らに、「社員旅行とかって、行ってみたい?」と聞くと、わりと「行ってみたい!」と答える人が多いことに、驚いた経験があります。
 
筆者の中では、社員旅行と聞くと、「面倒」、「わずらわしい」といった気持ちが先に立つのですが、最近の若者たちは、そうでもないのでしょうか?
 
これもジェネレーションギャップですね…
 
 
 


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