秋元通信

求貨求車システム「WebKIT」、過去7年間の取引データ調査分析を紐解く

  • 2023.3.16

物流スタートアップのascend(アセンド)が、国土交通省の委託を受け、求貨求車システム「WebKIT」の過去7年間(2014年4月~2020年3月)の取引データを調査・分析しました。
 
この結果が、なかなか興味深いです。ご紹介しましょう。
 
 
 

まとめ

 

  • WebKIT上の登録案件数は2018年度まで順調に増加したものの、2019年度以降はコロナ禍の影響もあり減少した。輸送品目としては「その他」が約30%を占め、地域としては発着共に「関東・近畿・中部」の大都市圏での案件が過半を占め、車種・車格としては「平型・ウィング型・ユニック」の案件が大半を占めることが確認された。
  •  

  • 公開案件と非公開案件には価格面で明確な差が確認できた(全案件・通年約7%)。運送会社間の完全に自由な交渉を前提とするのではなく、相性のいい顧客同士をマッチングする、あるいは取引におけるルールを一層明確化する等、プラットフォーム側の工夫が求められる可能性がある。
  •  

  • 地域間の運賃差異が7年分のデータを通して確認された(全体平均を基準として±10~20%程度の幅)。集荷地域、配送地域でみると、前者の方が上下幅がより大きく、集荷地域の運賃相場の影響を色濃く受けることが確認できたが、その要因分析のためには、より詳細な調査が必要である。

 
報告書中の「調査結果のまとめ」をそのまま転記しました。
さらに報告書を深掘りしましょう。
 
 
 

輸送品目

 
「その他」が約1/3、次いで「機械・装置」、「建材」、「金属製品」、「衣料・雑貨」、「鋼材」と続きます。この6品目で全体の8割を構成しています。
品目による成約率の違いはなかったそうです。少なくとも、WebKIT内では、「運ばれにくい貨物」は存在しないということですね。
また、調査対象期間において、品目の割合に変化はなかったとのこと。これは、コロナ禍でも同様だそうです。ただし調査期間が2020年3月までですから、もっと長いスパンで調査をすれば、WebKIT上で登録される案件における品目にも変化があった可能性があります。
 
運賃が著しく高いのは、「セメント製品」。
対して運賃が低いのは、「衣料・雑貨」、「水産物」、「その他危険物」です。「衣料・雑貨」と「水産物」の運賃が低いのは、製品そのものの利益率が低いからでしょう。報告暑中では触れられていませんが、「食料品」も安いです。
一方で、「その他危険物」については、「機械・装置」、「化学製品」とともに、「条件が付きそうな輸送品の単価が平均より安い」と考察されています。
 
 
 

発地と着地、そして運賃

 
集荷地域別登録案件数では、近畿、関東、中部の順に案件数が多く、この3地域で全体のほぼ8割を占めています。
対して、配送地域別登録案件数では、関東、近畿、中部、中国の順に案件数が多く、この4地域で全体のほぼ8割を占めます。
 
報告書では、「集荷・配送ともに都市圏への案件数偏りがあるが、集荷の方でより顕著に出る(関東+近畿+中部のシェアは集荷が74%、配送が60%)」と指摘しています。また、「成約ベースで地域間の集荷・配送案件数を確認すると、関東・近畿・中部から出た荷物が他地域へ配送されていく様子が確認でき、WebKITが長距離帰り荷を探す際に利用される場合が多いことが推察される」とあります。
 
これは課題です。
各地域内の貨物の流入数と流出数が同じであることは、当然ながら期待できません。つまり、トラック輸送ビジネスを構造的に診た際、帰り荷が必ずあるとは限らないわけです。
これが、後述の運賃ダンピングを誘引する原因になっている可能性があります。
 
集荷地域別運賃と配送地域別運賃の傾向を診ると、さらに悩ましいです。
 

  • 東北着の運賃は平均的だが、東北発の運賃は安い。
  • 関東、北陸信越は、発着ともに運賃は平均的。
  • 中部は、発着ともに運賃は平均より上。
  • 近畿は、中部に次いで、発着ともに運賃は平均より上。
  • 中国は、発着ともに運賃は平均より下。
  • 四国は、発着ともに運賃はもっとも高い。
  • 九州は、発着ともに運賃はもっとも安い。

 
また、運賃の差は、着地よりも発地により強く影響が出ています。これまた悩ましいです。
 
 
 

車種別

 
WebKITの成約案件における上位5車種は以下のとおりです。
 

  1. 大型ウイング車
  2. 2tウイング車
  3. 大型平車
  4. 4t平車
  5. 2t平車

 
この5車種で86%が構成されているそうです。
 
 
 

求貨求車システムは、ダンピングの温床となっているのか?

 
筆者は他メディアにおいて、以下記事を執筆したことがあります。
 
2万5,000円が3,000円に!? 運送業界ではびこる「バカげた運賃」はなぜ起きる?
 
秋元通信でも、運賃ダンピングについては考えたことがありました。
 
「囚人のジレンマ」から考える、運賃ダンピング
 
経済合理性が完全に機能するのであれば、本来運賃ダンピングは発生しないはずです。
しかし、「完全な経済合理性」あるいは「完璧な市場システム」などがありえないことは、行動経済学の観点から指摘したことがあります。
 
不合理な人間行動を愛でる、行動経済学の話
 
帰り荷は欲しい。
しかし、そもそも日本全国の貨物の流れは均等ではなく、地域によって帰り荷が見つかりやすい地域と、見つかりにくい地域があります。結果として「なんとしてでも案件を獲得したい」という気持ちが、運賃ダンピングにつながる可能性があります。
 
「公開案件と非公開案件には価格面で明確な差が確認できた(全案件・通年約7%)」という分析結果も、「他社に案件が取られてしまうかも??」という配車担当者の焦りが現れた運賃の差なのでしょう。
 
WebKIT以外にも、求貨求車システムはたくさんあります。
また政府は、求貨求車システムに対し、積載率を向上させ、輸送効率を上げる効果を期待しているようですが。
 
本報告書の結果を診る限り、求貨求車システムにはまだまだ課題があり、もうひと工夫する必要がありそうです。
 
 
 

出典

 

 
 
 


関連記事

■数値や単位を入力してください。
■変換結果
■数値や単位を入力してください。
■変換結果
  シェア・クロスバナー_300